１．はじめに

2023年の米国小売業界は、全体的な売上成長が鈍化する一方で、eコマース市場は引き続き急成長を遂げると予想されています。特に、オンライン食料品、健康・パーソナルケア、オンライン再販の分野が注目され、総売上は1兆1480億ドルに達する見込みです。これらのカテゴリーは、米国eコマースのダイナミクスを理解する上で重要なキーとなります。

本稿では、越境ECの観点から2023年現在の米国eコマース市場の最新トレンドを詳細に紹介します。特に注目すべき5つのトピックとして、オンライン食料品販売の拡大、健康・パーソナルケア製品の需要増加、特定カテゴリへの特化、Z世代によるオンライン再販市場の活性化、そして消費者のインスピレーションを刺激するeコマース体験の提供に焦点を当てます。

米国のeコマース市場は常に変化し続け、世界の小売業界に大きな影響を与えています。日本企業がこの動向を理解し、海外展開の戦略に活かすことで、越境ECにおける成功の可能性が高まります。それでは、米国eコマース市場の成長を牽引するこれらのトレンドを深掘りしていきましょう。

２．米国のeコマース成長の原動力

２−１．食料品のオンライン販売

米国のeコマース市場では、「食料品のオンライン販売」が重要な成長分野として浮上しています。これは、消費者の生活様式のデジタル化に伴いもたらされた顕著な変化の一つです。

2023年3月に公開されたレポート「US Ecommerce by Category Forecast 2023（ https://content-na1.emarketer.com/us-ecommerce-by-category-forecast-2023 ）によると、オンライン食料品ビジネスのメディア分布は、食料品店のウェブサイトが75.3％、サードパーティが18.3％、専門アプリが5.9％となっており、多くの消費者が既存の食料品店のウェブサイトを通じてオンラインで食料品を購入しています。

新型コロナウイルスの影響で在宅時間が増加し、食料品のオンライン購入への需要が急速に高まりました。これに応じて、多くの小売業者がデジタル化を推進し、リアルタイム在庫管理、効率的な購入プロセス、迅速な配送などを実現するための新技術とプラットフォームを導入しています。

また、定期購入サービスや食事配送サービスの登場も、このトレンドをさらに加速させています。これらのサービスは、消費者の好みに合わせたカスタマイズ可能な食品選択を提供し、日常の食事準備を容易にしています。

このような状況を踏まえ、越境EC市場における米国内の食料品オンライン販売は、今後も成長する重要なセグメントとして注目されます。この分野に注力することは、日本企業の越境EC戦略において重要な機会を提供する可能性があります。

２−２．健康・パーソナルケア

米国eコマース市場のもう一つの主要なトレンドは、「健康・パーソナルケア」の分野です。店舗で直接製品を確認する消費者がいる一方で、多くの消費者はオンラインでの製品レビュー、比較、評価を通じて情報を収集し、製品選定を行っています。これにより、消費者は自己のライフスタイルや個別のニーズに適合する製品を容易に見つけることができるようになりました。

新型コロナウイルスの影響で在宅時間が増加し、健康とウェルネスへの関心が高まっています。これに伴い、ビタミン、サプリメント、スキンケア製品、フィットネス機器などのオンライン販売が増加しています。

また、オンラインで直接的な対話やカウンセリングを提供するウェブサイトやアプリ、パーソナライズされた製品を提供するスタートアップの登場も、このトレンドを後押ししています。これらは、健康や美容に関する個々のニーズに応える製品やサービスを提供することで、消費者に合わせた購入体験を実現しています。

健康とパーソナルケア分野のeコマースは、便利さとパーソナライゼーションを求める現代の消費者ニーズに応えることに成功しています。これらのトレンドは今後も持続し、米国eコマース市場において重要な役割を果たすと予想されます。これにより、越境ECを行う日本企業にとっても、この分野での進出は大きな機会を提供することが期待されます。

２−３．カテゴリに特化したeコマース

米国eコマース市場におけるもう一つの重要なトレンドは、「カテゴリに特化したeコマース」の拡大です。これは、特定の商品やサービスに焦点を絞った専門的なオンラインストアやプラットフォームの登場を指します。例えば、ファッションやホームデコレーションなど、特定のカテゴリに特化したeコマースは、深い知識と専門性を活かし、消費者に詳細な情報やカスタマイズオプションを提供します。

このような特化型eコマースは、商品の選択から購入、アフターサービスまで、一貫した高品質な顧客体験を提供します。これにより、ブランドと顧客との間に強い結びつきが形成されます。越境ECにおいても、特定のカテゴリに特化したeコマースプラットフォームは、国際市場での成功の鍵となります。

これらのプラットフォームは、単に製品を提供するだけでなく、関連情報や体験を求める消費者のニーズに応えます。特に、越境ECを行う際には、特定のニッチ市場における深い専門知識と優れた顧客体験が、消費者の信頼と忠誠を勝ち取るための重要な要素となります。

このトレンドは、特化したeコマースが継続的に成長し、さまざまなカテゴリで新たなビジネスチャンスを生み出すことを示しています。日本企業は、このトレンドを活かし、自社の強みを生かした特化型eコマースを通じて、海外市場での存在感を高めることが期待されます。

２−４．Z世代主導のオンライン再販

米国eコマース市場における4つ目の重要なトレンドは、「Z世代主導のオンライン再販」です。このトレンドはZ世代（1997年から2012年生まれの人々）の持続可能性と個性重視の購買行動が反映されています。

Z世代はデジタルネイティブであり、オンラインでの購入や売却が当たり前の行動となっています。また、この世代は環境と社会に対する認識が高く、新品を購入する代わりに、リサイクル可能な商品を選ぶ傾向にあります。このような価値観は、特に越境ECにおいても重要なファクターとなり、持続可能な商品を求めるグローバルな消費者に訴えることができます。

Z世代はまた、自己表現を重視し、ユニークで希少性のある商品を求める傾向があります。これにより、中古品やビンテージ商品のオンライン市場が拡大しています。再販アプリやプラットフォームはこのニーズに応え、安全で便利な方法で商品の売買を可能にしています。

このトレンドは、持続可能性と個性を重視する現代の消費者の意識の変化を反映しています。越境ECにおいては、これらの価値観に適応し、異なる文化や市場のニーズに応じた商品やサービスを提供することが重要です。eコマース業界はこれらの価値観に合わせて新しいビジネスモデルやマーケティング戦略を模索し、消費者とのつながりを深めることが期待されます。

２−５．インスピレーションや気付きを顧客にもたらすeコマース

米国eコマース市場における5つ目のトレンドは、「顧客にインスピレーションや気付きを提供するeコマース」です。このトレンドは、オンラインショッピングが単なる製品取引の場から、顧客に新しいアイデアやインスピレーションを提供する体験へと進化している現象を指します。

越境ECにおいても、このトレンドは非常に重要です。eコマースプラットフォームは、商品の選択と購入だけでなく、顧客に新たなアイデアを提示し、パーソナライズされた体験を提供することによって、国境を越えた顧客との関係を深めることができます。

例えば、ソーシャルメディアとeコマースの統合は国際的な顧客に対しても効果的で、消費者は世界中のインフルエンサーやブランドから購入のインスピレーションを得ることができます。また、AIと機械学習を活用したパーソナライズされた推奨は、国境を越えた消費者が未知の商品やブランドを発見する手助けとなります。

さらに、体験重視のショッピングは、購入前に商品を試したり、ブランドのストーリーを知ったり、コミュニティの一員であると感じたりするための新たな方法を国際的な消費者に提供します。バーチャルリアリティ（VR）や拡張現実（AR）を活用したバーチャル試着や、ブランドの起源や製品の生産過程を掘り下げるストーリーテリングは、越境ECにおける顧客エンゲージメントを一層強化します。

このトレンドは、eコマースが国際市場において顧客に価値と意味を提供し、購入の決定だけでなく、ブランドとの深いつながりを形成する新たな方法を模索していることを示しています。今後の越境ECの戦略と経験設計において、このトレンドはますます重要な役割を果たすことが予想されます。

３．越境ECの視点から見た海外進出戦略

上記の5つのトレンドから明らかなように、米国のeコマース市場は動的で機会が豊富ですが、同時に競争も激化しています。越境ECの観点から海外市場に新たに進出し、成功を収めるためには、市場のトレンドを深く理解し、消費者の期待に応える戦略を展開することが不可欠です。

消費者の行動、価値観、期待は常に変化しており、これに迅速かつ柔軟に対応することが、越境ECにおける海外市場での成功の鍵となります。また、最新のeコマーストレンドを活かし、新たな市場機会を掴むことで、国際市場でのビジネスを成長させることが可能です。

このようなトレンドを活用してビジネスチャンスを最大化するためには、適切なアドバイスとサポートが不可欠です。海外市場での成功を目指すには、市場調査、顧客インサイトの収集、競合分析などを通じて、ビジネス戦略を慎重に策定する必要があります。また、現地のパートナー企業や専門家の知識とネットワークを活用することも大切です。

越境ECにおいては、オンラインモールやeコマースプラットフォームに出店することで、新たな顧客層にアクセスする機会を得られます。しかし、異なる市場で成功するためには、地域に特化した商品の提供やカスタマイズされたサービスが求められます。さらに、多言語対応のウェブサイトやローカライズされた決済システムの導入など、越境ECをスムーズに運営するための技術的なサポートやインフラ整備も重要になってきます。

このように、越境ECでは、グローバルな視点とローカルなニーズの理解を融合させたアプローチが求められます。海外でのビジネス拡大を考える日本企業は、これらの要素を考慮し、効果的な市場展開戦略を立案することが必要です。