目次
1.はじめに

日本から海外に事業展開する際や、越境ECなどを行う際には、日本法人と現地企業とのお金のやり取りや、海外の顧客とのお金のやり取り(国際送金)が多く発生します。従来の国際送金システムでは、高い送金コストや参入企業の少なさ、そして送金の不透明性などの問題がありました。
しかしながら、今世紀に入ってから、フィンテック業界は目覚ましい成長を遂げており、インターネットの普及とお金のデジタル化によって、お金の管理と移動の方法は様変わりしました。越境ビジネスの増加による国際送金への需要増加も相まって、現在の国際送金市場は世界で1000社近くが参入する大きなマーケットとなっています。
本稿では、国際送金マーケットの概況について解説するとともに、国際送金サービスを提供する注目のスタートアップ企業についても紹介します。海外進出・海外展開ではなくてはならない国際送金システムについて最新のトレンドを理解するのにお役立ていただけましたら幸いです。
2.国際送金市場概況

国際送金は、近年、急速にデジタル化されています。従来の送金は、現金取引に依存していました。しかしながら、近年登場したモバイルウォレットサービス(さまざまな決済手段をひとつのアプリに統合しデジタルなお財布を実現するサービス)のような新世代の決済ソリューションの普及によって現金の利用はすっかり減ってきています。
世界の主要な業界、市場調査や消費者動向に関するデータや統計を提供する世界最大級のプラットフォームStatistaによると、デジタル送金セグメントの取引額は、2022年に1272億6200万ドルに達しました。2025年には1663億7300万ドルに達すると予測されており、そのCAGRは9.34%(2022-2025年)となっています。
デジタル送金を求めるエンドユーザーの多様性も、本事業分野の成長を後押しする一因です。デジタル送金に対しては、先進国だけでなく、発展途上国での需要も大きくなっています。出稼ぎ労働者から、中小企業、そして大企業に至るまで、家族や顧客に国際送金をする場面は多くあります。多様なバックグラウンドのユーザーが国際送金サービスの成長を支えているといえるでしょう。
さらに、COVID-19のパンデミックも、デジタル送金への移行を劇的に促進させました。
モバイルウォレットなどの非接触型決済システムなど、新しい形態の電子決済ソリューションが大きな注目を浴び、その普及が進みます。その結果、モバイルウォレットを使えば、ワンタッチで送金できるため、便利で効率的なだけでなく、取引時間の短縮にもつながることが多くの人に認知されることになりました。
国際送金においても同様で、消費者はオンラインやモバイルバンキング、モバイルアプリを介した国際送金ソリューションに素早く移行しました。

3.デジタル国際送金の利点

デジタル国際送金は、透明性の高さと、送金のスピード感が大きな特徴です。ここでは、国境を越えたモバイル送金の具体的なメリットを紹介します。
3−1.送金コストの引き下げ
デジタル送金では、モバイルウォレットから直接デジタルマネーを送金することができます。そのおかげで、従来の現金ベースの送金に関わるバリューチェーンから多くの仲介業者を取り除くことができます。その結果として、デジタルウォレットや他の電子決済システムを使用したモバイル送金は、最も安価な国際送金方法となり得ます。
国際送金事業者は、銀行と同程度の信頼性と安全性を担保しながらも、銀行の国際送金よりも一般的に低い送金手数料を提供しています。
3−2.都市部以外でも金融環境を改善可能
デジタル送金は、農村部や発展途上国におけるファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)を改善することが明らかになっています。これは、デジタルソリューションにより、銀行口座を持たない人であっても、また金融サービスのインフラが整っていない地域であっても、アクセスできるためです。これは従来の銀行業務とは大きく異なるポイントといえます。
※ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)とは、貧困や難民などに関わらず、誰もが取り残されることなく金融サービスへのアクセスができ、金融サービスの恩恵を受けられるようにすることを意味しています。
3−3.取引の透明性の向上
顧客の信頼を得るために透明性は非常に重要な要素となります。デジタル決済とモバイル送金では、国をまたいだ送金であっても、支払いを追跡し、コストの透明性を高め、不正のリスクを回避することができます。
3−4.送金手数料と送金スピード
デジタル送金の大きな利点は、送金スピードにもあります。モバイル決済であればタイムラグなく相手先に送金することもよく行われています。銀行口座間の取引であっても、デジタル送金を利用すれば1〜2日で送金を完了させることが可能です。このような即時性は、為替の変動を考慮しなければならない国際送金にとって特にメリットとなります。
4.国際送金事業者のトレンドと注目の企業

国際送金のチャネルには、大きく分けて、銀行、送金事業者、オンラインプラットフォームがあります。その中でも、送金事業者が最大の市場シェアを占めており、2022-2030年には最大13.39%のCAGRで成長すると予測されています。
送金事業者の成長には、データ駆動型および技術駆動型の新技術の導入が大きく関係しています。フィンテック企業とのパートナーシップを進める送金事業者も多く、顧客にとってより良いサービスを提供する新企業が続々と誕生しています。
そこで、ここでは、現在注目の国際送金サービスのうち、北米を拠点にしている企業を紹介します。
4−1.Remitly
Remitlyでは、銀行ネットワークを利用した国際送金サービスを提供しています。銀行預金、UPI、現金口座を使って送金を行うことが可能です。リアルタイムの為替レートや特別オファーとともに、銀行レベルのセキュリティを顧客に提供します。iOSおよびAndroidデバイスでアプリケーションにアクセス可能です。
会社概要
● 設立年 2011年
● 所在地 シアトル(米国)
● ウェブサイト https://www.remitly.com/
4−2.Circle
Circleでは、暗号通貨を中心とした事業者向けの越境決済ソリューションを提供しています。API型の決済システムのためのペイメントAPI、グローバルペイアウトソリューションのためのペイアウトAPIなどを取り扱っています。
会社概要
● 設立年 2013年
● 所在地 ボストン(米国)
● ウェブサイト https://www.circle.com/en/
4−3.Euronet Worldwide
Euronet Worldwideでは電子決済プロバイダーとして、金融機関、小売業者、サービスプロバイダー、個人消費者向けに、決済・取引処理・流通ソリューションを提供しています。電子決済(EFT)、プリペイド(epay)、送金という3つの中核事業分野を持ちます。
EFT部門では、独立系ATMネットワーク、ATMネットワークへの参加、自動預け払い機などのATMアウトソーシング、POSソリューション、クレジットカード・デビットカードのアウトソーシング、カード発行・加盟店獲得サービス、付加価値サービス製品、および電子決済・取引配信システム用の統合EFTソフトウェアソリューション群から成る包括的な電子決済ソリューションを提供しています。
会社概要
設立年 1994
所在地 カンザス州リーウッド(米国)
ウェブサイト https://www.euronetworldwide.com/
4−4.Sendwave
Sendwaveはアプリベースの送金事業者です。国際送金をテキストメッセージを送るのと同じ程度簡単にすることを目的としています。同社のアプリでは、米国、英国、カナダからケニア、ウガンダ、タンザニア、ガーナ、ナイジェリアへ手数料無料の送金を即座に、高レートで送金することができます。iOS、Android端末で利用可能です。
会社概要
● 設立年 2014年
● 所在地 ボストン(米国)
● ウェブサイト https://www.sendwave.com/
4−5.Xoom
Xoomは、国境を越えた送金のための銀行チャネルです。銀行送金や現金預け入れを通じて、国際送金や決済を可能にします。また、グローバルな請求書の支払い、最新情報へのアクセス、取引の追跡などのツールも提供しています。
会社概要
● 設立年 2001年
● 所在地 サンフランシスコ(米国)
● ウェブサイト https://www.xoom.com/
5.海外進出・海外展開への影響

近年、越境ECビジネスの急成長や、国外労働者の増加などを受けて、国際送金事業者の数も増加しています。参入企業の増加により、これまでよりも利便性が良く、透明性の高い越境決済の環境が整いました。フィンテック事業者やチャレンジャーバンク(自ら新規に銀行免許を取得し、スマホなどで金融サービスを提供する企業)がこの変化の主な原動力となっています。
海外進出・海外展開を行う事業者にとっても、より良い国際送金サービスを選択することは重要です。顧客のビジネスニーズを理解している送金事業者によるサポートを受けることで、以下のようなメリットも期待できます。
● 事業の成長機会を見出すことができる
● 自社事業に適した決済サポートを導入することで、顧客満足度が高まる
● 外国為替にかかる費用を節約できる
国際送金サービスを利用する際には、セキュリティ、スピード、サービスなどを考慮して、自社のビジネスモデルに適した国際送金プロバイダーを選択するとよいでしょう。
