目次
1.はじめに

米国においてもパンデミックは市民生活へ大きな影響をもたらしました。しかし、最近の調査(https://www.guidantfinancial.com/small-business-trends/)において、中小企業の経営者にパンデミックの将来の影響について尋ねたところ、ほとんどの回答者が、将来について「やや自信がある」「非常に自信がある」と回答しています(46.74%)。「やや自信がない」と答えたのは27%強であり、「非常に自信がない」と答えたのは7.56%と少数派でした。同調査で、54.60%の経営者がパンデミックの影響はまだ終わっていないと感じていることを考えると、これはアメリカの中小企業における楽観主義の表れであるといえるでしょう。
楽観論はこれだけにとどまりません。83.36%の経営者は、自社のビジネスが新型コロナウイルスのパンデミックから生き残ることができると考えているのです。アメリカにおいて、中小企業は民間労働者雇用の46.8%を牽引しており、経済回復の屋台骨となっています。実際、従業員の一時解雇やレイオフを行ったのは、中小企業の4分の1以下となっており、中小企業はアメリカの活力源ともいえるでしょう。
本稿ではアメリカの中小企業の傾向調査の結果をもとに、業種の傾向や企業の課題などについて解説します。そして、米国中小企業でも大きな割合を占めるターンキービジネスについても紹介します。米国の中小企業トレンドを経営者からの視点で把握することは、日本企業が海外進出をする際に大変参考になります。
2.2022年の米国中小ビジネス動向

米国中小企業庁(The U.S. Small Business Administration:SBA)によると、最初の5年間を生き延びることができるのは、全小企業の半分に過ぎません。さらに、10年間生き延びるのは3分の1に過ぎないのです。
Guidantによる2022年の中小企業経営者に対する調査においても同様で、回答者の半数強(51.61%)はビジネスを立ち上げてから0〜5年であり、ビジネスを立ち上げてから6〜10年となっているのは22.68%となっています。11〜15年経過したビジネスは11%、16年以上経過したビジネスは8%と生き残りは容易でないことがわかるでしょう。
また、フランチャイズではない独立系の企業が58.98%と最も多く、その独立系の中でもターンキーモデル(詳細を後述します)が31.76%を占めています。これは、ゼロから独立開業した経営者(27.22%)よりも多い数値です。
フランチャイズビジネスは41.02%で、既存のフランチャイズ加盟店の購入(10.02%)よりも新しいフランチャイズ加盟店の設立(31.00%)が圧倒的に多くなっています。
業種別にみると、小売業(店舗型、eコマース、その他)が15.05%で最多となっており、次いで、「食品・外食」(13.71%)、「ビジネスサービス」(10.10%)、「健康・美容・フィットネス」(9.71%)、「住宅・商業サービス」(9.33%)が上位5業種に名を連ねています。
2022年の調査では、65%の経営者が黒字であると回答しています。35%の経営者が利益を上げていないと回答していることにビジネスの厳しさを感じるかもしれませんが、調査対象となった企業の半数以上が創業5年以下であること、一般に、ビジネスは2〜3年で黒字になると言われていることを考えると、この数値は予想できるものでしょう。
ビジネス展開について、大多数の経営者は、現在の拠点を成長させることに注力しており(51.80%)、すでにある事業の状態を維持することに注力している人(26%)が次点です。別の拠点を設けたり、別のサービスを始めようと考えている人(12.10%)や、事業を売ろうと考えている人(10.02%)は比較的少なくなっています。
経営者が優先事項のトップ3は、スタッフの増加(51.04%)、事業の拡大・改装(41.02%)、デジタルマーケティングへの投資(39.70%)でした。特に2点目「事業の拡大・改造」については、ビジネスローンの金利が低い今、経営者が拡張に踏み切った可能性があります。
3.中小企業経営の課題は人材確保と採用

中小企業の課題一位となったのは「従業員の採用と定着」であり、同課題を挙げた中小企業経営者は半数以上となりました。採用難易度についても、70.73%が、例年に比べて採用がやや難しい、または非常に難しいと回答しています。
定着と採用に次いで、多くの経営者が課題と挙げたのは、新型コロナウイルスに対応した業務変更(32.14%)、資金不足/キャッシュフロー(31.57%)、管理業務(23.25%)となりました。また、「物価の上昇やサプライチェーンの問題で苦労している」という経営者のコメントも目立っています。
一方、採用が困難な理由については、応募者が少ない(46.86%)と他の雇用主との競争(30.43%)が最大の課題であり、次いで応募者に必要な実務経験(27.05%)や技術スキル(23.67%)の欠如が挙げられています。
人材確保と採用の課題への対応として、報酬を増やしている中小企業経営者は圧倒的に多く(63.17%)、人件費が増加していることがわかります。また、現在の従業員を維持するために大きな努力をすると回答した人も33%になり、企業が辞職に立ち向かう姿勢が見て取れるでしょう。残りの上位戦略は、採用広告活動の拡大(22.93%)、福利厚生の拡充(17.80%)、採用ボーナスの支給(16.34%)でした。
調査では、最も採用難易度の高い職種についても言及していますが、採用難易度が特に突出した職種はありませんでした。
4.ターンキービジネスとは?

ターンキーとは、キー(鍵)を回すだけですぐに使える状態という意味であり、ターンキービジネスとは、すでに存在し、開始するために必要なすべてのものが含まれているビジネスを購入することで自分のビジネスを始めることを指します。
つまり、成功の実績を持つ確立された企業を購入すれば、スタートアップの時点で、ビジネスプラン、高い需要、安定したキャッシュフロー、確立された顧客基盤、安定したスタッフや請負業者、銀行やベンダーとの良好な関係を手に入れることができるため、将来的な成長の可能性も高いのです。
このような企業は、広告やブローカー、ウェブサイトを通じて国内および海外の様々なエリアで見つけることができます。ビジネスの種類も、通常のオフィスで運営するローカルなものから、場所にとらわれず自宅で運営するものまで、さまざまです。例えば、Empire Flippers(https://empireflippers.com/)はビジネスを売り買いできるマーケットプレイスであり、新しいオーナーはビジネスを引き継いだ初日から、さまざまな方法(たとえば、コンテンツ、サービス、eコマースの提供など)で収益を上げることができます。
ターンキービジネスには、主に以下のような長所があります。
長所1.実績のあるシステムをそのまま活用できる
ターンキーシステムは、ビジネスを成功させるためのハウツーマニュアルともいえます。受け取ったビジネスも元のオーナーが行なってきた方法を真似ることで、同じような成功を得ることが期待できます。
長所2.スタートアップの時間短縮とリサーチの優位性
既存ビジネスの製品やサービスは、すでに市場でテストされているだけでなく、すぐに販売を開始することができます。例えば、ゼロから小売ビジネスを始める場合、在庫の入手、仕入先の確保、従業員の雇用、場所の確保などの投資が必要になるでしょう。それに比べ、既存のビジネスを購入する場合は、従業員がすでにトレーニングを受けている、既存のサプライヤーとの関係がある、手順やプロトコルが確立されている、引き出すべき情報基盤が充実しているなど、多くの業務がすでに確立されているのです。
長所3.サポート
既存のビジネスを売却する場合、元のオーナーからサポートを得られることが一般的です。特に、フランチャイズビジネスの場合には、サポートが手厚く、適切な方向にビジネスを展開することで、成功の可能性が高まることでしょう。
長所4.確立されたブランドと顧客基盤
新規事業の場合、自社ブランドを顧客に認識してもらうことから始めなければなりません。一方で、ターンキービジネスでは、ブランドがすでに認知されているため、新しい経営者はこのステップを飛ばすことができます。
ビジネスを運営する上で最も難しいのは、顧客を説得して、競合他社の製品から自社の製品に切り替えてもらうことです。そのためには、自社ブランドが業界一であることを示す必要があるでしょう。ターンキービジネスでは、対照的に、すでに確立された熱心な消費者層を持っており、これは大きなメリットとなり得ます。
上記のように、ターンキービジネスにはさまざまなメリットがありますが、下記のような短所もあります。
短所1.値段とビジネスの質は比例関係にある
会社がうまくいっている場合、その売却に経営者は高値を求めるものです。そのため、既存のビジネスを購入するコストと立ち上げコストを慎重に比較検討する必要があります。長い目で見れば、独自のビジネスやブランドを展開する方がコストを抑えられるかもしれません。
ビジネスを安く手に入れることができる場合には、そのブランドへの信頼度に注意する必要がありますぅ。マーケットを調査すると、そのブランドが失墜していたり、市場がその製品やサービスを拒否している可能性もあります。
短所2.大幅な業務改革が必要な可能性
すぐに利益を挙げられると期待していたにもかかわらず、実際ビジネスを引き継いでみたら、様々な問題に対処する必要があることもあります。実際に事業を始めてみないと、事業がどの程度うまく回っているかはわからないものなのです。例えば、従業員の不満や離職率の高さなどの人材問題、古くなったり故障しやすい設備、信頼できないサプライヤー、既存の債務やキャッシュフローの問題などが挙げられます。
また、新たな経営者として、事業に変更を加えたくても、従業員が方針変更に反対し、辞めてしまうかもしれません。このような事態を避けるためにも、既存の会社についてできるだけ詳しく調査しておくことが重要です。
5.海外進出・海外展開への影響

ビジネスの成功には、製品やサービスだけでなく、人材確保やブランド認知などさまざまな要因が組み合わさっています。特に、新しい市場を開拓する場合には、思いがけない障壁に当たる場合もあるでしょう。日本企業が米国で海外進出を考えている場合も同様です。
既存のデータや新規調査を通して、入念な市場調査を行いましょう。今回紹介したターンキービジネスのように、既存のビジネスを活用して市場開拓するのも有効な方法の一つです。
ただし、中には相手の知識の無さを悪用して詐欺を行うようなケースもあります。不慣れな市場で非倫理的な相手に騙される可能性を考え、正式な契約を行う前には十分な調査とチェックを行うことが不可欠です。