目次
1.はじめに
新型コロナウイルスの世界的大流行によって、人々の働き方は大きく様変わりしました。特に、米国では強制力を伴った在宅勤務が広がり、オフィスから人が消えていったのです。そして、現在注目されているのがコワーキングスペースの活用です。
実は、規制が解除されオフィスが再開した後も、米国の労働者の52%は、在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせた勤務形態を好んでいることが分かっています(https://www.gensler.com/uploads/document/740/file/Gensler-US-Workplace-Survey-Summer-Fall-2020.pdf)。また、企業のリーダーを対象にしたアンケートにおいても、その72%がハイブリッドモデルでの働き方を今後従業員に提供することを計画しています(https://www.steelcase.com/research/articles/topics/work-better/first-wave-workplace-change/)。企業のオフィススペース削減を予定している組織も13%にのぼり(https://www.steelcase.com/research/articles/topics/work-better/real-questions-real-answers-hybrid-work/)、今後オフィスとは別の場所で働く形がさらに主流となってくることが予測されています。
このような流れの中で勢いを見せているのが、コワーキングスペースです。米国企業の50%以上が、今年のオフィス再開の一環として新しいワーキングスペースを試験的に導入することを計画しており(https://www.steelcase.com/research/articles/topics/work-better/kickstart-return-office/)、オフィスとは異なる形態のワーキングスペースの必要性が増しています。
本稿では米国を中心にしたコワーキングスペースのトレンドについて紹介するとともに、様々な工夫をこらしたコワーキングスペースの事例についても取り上げていきます。
企業の海外展開の際には、現地の働き方をしっかりと把握しておくことが現地の優秀な人材を確保することに繋がります。現地のワーキングスペースのトレンドを参考にすれば、現地従業員にとって魅力的な職場を作りができるでしょう。また、海外のビジネストレンドを参考に、海外進出のビジネスアイデアにつなげていただけますと幸いです。
2.業界トレンド
2−1.コラボレーション性
コワーキングスペースには、単なる場所ではなくコミュニティの場となることが一層期待されています。例えば、一部のコワーキングスペースでは、メンバー登録の際に、利用者自身がその環境を選択できるような運用を始めています。
つまり、コワーキングスペースを利用し、同じような興味を共有し、コラボレーションできるようなメンバーを集めたコミュニティを創造しようという試みです。。同じような興味や目的意識を持ったビジネスパーソンを一つの屋根の下に集めることで、より深い関係を築き、コラボレーションを構築し、その結果としてビジネスを効率的に成長させることに繋がるでしょう。このような魅力的なコミュニティであるコワーキングスペースでは、利用者からの満足度も高まり、新規参入者を見込めることから、収益を増やし、ビジネスを拡大することができる可能性があります。
また、特定の業界やニッチに特化したスペースも人気となっています。例えば、保育所を併設した親のためのコワーキングスペース、女性専用のコワーキングスペース、ワーケーションを叶えるコワーキングスペースなどです。同じような興味や目的を持った人々を顧客層に抑えることで、アイデアを共有し、コラボレーションし、生産性を高め、革新的なソリューションを考え出すのに最適な場所となることが期待されます。
2−2.多目的なコワーキングスペース
一方で、元々はホテル、店舗、レストランなどのスペースをコワーキングスペースとして利用できるようにする取り組みも増えています。例えば、昼間はレストランをコワーキングスペースとして使用し、夜は従来のレストラン施設として使用するような場合です。また、スポーツジムとコワーキングを組み合わせて、ウェルネス指向の複合施設をつくることもできます。
このような複合施設型のコワーキングスペースは運営者、利用者の両者にメリットがあります。運営者側は共有経済を利用してより多くの利益を生みだすことができますし、利用者も安価に複数のサービスを楽しむことができるのです。
2−3.IoTと自動化
コワーキングスペースの利用体験を向上させるための鍵となるのがIoTと自動化です。消費者はよりシームレスな体験を欲しており、単一の統合された仕組みを介して、コワーキングスペースを利用できるようにする必要性が高まっています。
具体的には、アプリ内で予約、支払い、利用が完結する仕組みを想定すると良いでしょう。利用者自身がコワーキングスペースのモバイルアプリを開き、利用する時間や施設を選択すれば、そのままアプリ内で決済できるという仕組みのものです。さらに、実際の利用時に、スマートフォンで部屋を解錠できるような仕組みにすれば、よりシームレスな体験を提供できるでしょう。
3.独自の戦略を展開するコワーキングスペース事例
3−1.メンタルヘルスの専門家のためのコワーキングスペース「ブルーハウスウェルネス」
(https://bluehousewellness.com/)
ジョージア州アトランタにあるブルーハウスウェルネスは、メンタルヘルス専門家のためのコワーキングスペースです。 ブルーハウスはセラピスト専用に設計されており、利用者は必要に応じて部屋を予約できます。利用者はプライバシーにも配慮された快適なオフィスでクライアントとセッションを行うことができるのです。
3−3.コワーキングスペースの大手「Wework」の生き残り戦略
(https://www.wework.com/)
2010年に米国ニューヨークで創業したコワーキングスペースの大手WeWorkは、全世界38ヶ国151都市800ヶ所以上の地域でコワーキングスペースを提供・運営しています。しかし、WeWorkでは、現在会員数が減少しており、苦境に立たされている状況となっています。そのため、現在では新しいオンデマンドおよびオールアクセスオプションを通じて、より多くの人々に、ニーズに合った施設を使用してもらえるような戦略に踏み切っています。利用者がより気軽に利用できるようにすることを目標に、自宅での仕事からの気分転換として、週に1日はオフィス業務に戻れる場所としての提供を試みています。
また、企業と協力して、企業の福利厚生としてWeWorkへのオールアクセスサービスを提供する企画や、大学と協力して、学生に別の学習場所を提供する企画も打ち出しています。たとえば、Georgetown UniversityはWeWorkとパートナーシップを結び、在籍する学生にWeWorkへのオールアクセスサービスを提供し始めました。新型コロナウイルスの影響で、公共の図書館の多くが閉鎖する中、学生に安心して勉強できるスペースを確保したいという狙いがあったためです。(https://www.georgetown.edu/news/wework-all-access-benefit-for-georgetown-university-students/)。
また、Brandwatchなどの企業も最近、WeWorkのオールアクセスのパスを従業員に付与して、世界中にあるWeWorkのロケーションを利用できるようにしています(https://techcrunch.com/2021/03/15/wework-unbundles-its-products-in-an-attempt-to-make-itself-over-but-will-the-strategy-work/)。
4.海外進出・海外展開への影響
従来コワーキングスペースは、フリーランサー、スタートアップ企業、起業家など一部の人々を中心に利用されていました。しかしながら、最近ではリモートワークが主流となり、オフィスに通うことなく仕事をする人々が急激に増えたことで、コワーキングスペースのターゲット層が広がっています。
また、企業としても通勤と在宅を同時に実施するハイブリット型に変換していく中で、今までと同じ規模のオフィススペースを維持することが非効率になってきました。これを受けて、企業は自社のオフィススペースの代わりにコワーキングスペースを有効活用することを視野に入れ始めています。
このトレンドは、企業が海外展開する際にはプラスに働く可能性があります。日本から海外展開する際には、オフィス立ち上げに大きな初期費用がかかりがちです。しかしこの際、コワーキングスペースをオフィスとして利用すれば、初期投資を抑えながら海外進出をすることも可能となるのではないでしょうか。
このように新たな形でコワーキングスペースビジネスが成熟する中で、従来よりも質の高い、付加価値のあるスペースが求められる傾向があります。言い換えると、店舗数などで圧倒していた大手だけでなく、新規参入企業にも工夫次第ではビジネスの成功を収められる可能性が高まっているのです。スタートアップ企業として自由なアイディアで新しいビジネスを始めるチャンスともいえるでしょう。利用者のニッチな需要をいかに吸い上げるかが鍵になるといえます。