目次
1.はじめに
ゲーミフィケーションとは、2002年にニックペリングによって造られた用語です。ゲームの要素や仕組みをほかの分野で活用することを意味し、仕事と楽しみを組み合わせることを目的としています。
ゲーミフィケーションは、人間の行動が関係している場面であれば広く活用できるものです。マーケティングはもちろん、ビジネスのほぼすべての部門の成長に役立つ可能性があります。米国では顧客向けにも、従業員向けにもゲーミフィケーションを活用している企業が多く、日本から海外進出する際にもおさえておくべき内容といえるでしょう。
本稿では、ゲーミフィケーションの概要とユースケースについて解説するとともに、ゲーミフィケーションを導入している米国企業の活用事例も取り上げました。また、米国でゲーミフォケーションを開発・提供しているスタートアップ企業も紹介します。
日本企業が海外市場へと展開する際の参考として、デベロッパー、ユーザーの両面から本記事の情報を活用いただけますと幸いです。
2.ゲーミフィケーションの基本原則
ゲーミフィケーションについて、ゲーム中の様々な課題をクリアすることだと考えている人は多いです。しかし、実際にはゲームプレイ以外にも、ストーリーやタスクなどプロジェクト全体を構成する複数の重要な要素があります。ここでは、ゲーミフィケーションの基本原則について説明します。
2−1.ゲームの仕組みを有すること
ゲーミフィケーションの最も重要な要素は、何かをクリアすることで得られる評価、ポイントなど、様々な報酬システムです。
この仕組みの典型的な例として、ロイヤルティプログラムが考えられます。例えば、米国マクドナルドでは2021年夏から「MyMcDonald’s Rewards」という新しいロイヤリティプログラムを展開しています。このプログラムでは、支払い金額ごとにポイントが付与され、合計ポイントに応じて、商品と交換できるのです。
リワードプログラムにはマクドナルドのモバイルアプリが必要であるため、モバイル注文が促進されると期待できます。アイテムを無料で配ることで、リピート購入を増やし、顧客の人物像を把握するのが、企業側の狙いです。
なお、米国のファストフードチェーンの中では、同様のリワードプログラムを展開している企業が他にも多くあります。例えば、スターバックス、ドミノ・ピザ、チポトレなどは、マクドナルドよりも前から独自のロイヤルティプログラムを展開しています。
2−2.シンプルなルールであること
ゲーミフィケーションでは、まずターゲットに興味を持たせることが重要です。そのために、鍵となるのが難易度の設定です。
登録、チェックアウト、マーケティング・キャンペーンなど、ターゲット層を全く絞らないという選択もできるでしょう。ただし、特定のボーナスを受け取るためには、一定の条件をクリアする必要などある程度の難易度に設定するほうが効果的です。なぜなら、小さなハードルは顧客のクリアしたいという気持ちを高め、ひいては関心を高めることにつながるからです。もちろんルールを複雑にさせすぎるとターゲット層が諦めたり、興味を失ったりしてしまうので注意は必要です。
2−3.キャンペーンや紹介制度
ゲームの要素をもった顧客同士の紹介制度を導入すれば、効果的な連鎖反応が起こり、それ自体がマーケティング施策となり得ます。また、多額の賞金をかけた抽選キャンペーンなどを行えば、それ自体が話題となり、莫大な数の顧客層に訴求できる可能性があります。
2−4.データの分析
ゲーミフィケーションではプレイ(顧客行動)やプレイヤー(顧客層)の分析も必要です。キャンペーンやロイヤリティプログラムから得た情報に対して、統計的な評価をすることで、利益を生み出すターゲット層を見つけることになるのです。
3.ゲーミフィケーションの効果
ここでは、ゲーミフィケーションの導入によって期待できる効果を紹介します。
3−1.新規顧客の獲得
ゲーム要素があることで、現在の顧客層との関係改善だけでなく、新規顧客との関係も構築することができます。また、ブランドへの関心を失った旧顧客を呼び戻す機会にもなり得るでしょう。特に、後者の場合、ターゲット層はすでにブランドについて既知であるので、ゲーミフィケーションというきっかけによって、再度ブランドに興味を持ってもらうこともできるのです。
今や、どんなニッチな市場でも、オリジナリティが評価される時代となっています。ゲーミフィケーションの活用によって、自社ブランドをクリエイティブで忘れられないものにすれば、ターゲットの興味は高まり、ブランドは業績を伸ばすことができるでしょう。
3−2.ロイヤリティの獲得
ビジネス成功にとっては、競合他社よりも先に顧客を驚かせる何らかの差別化施策を打ち出すことが重要です。顧客を誘引し続けるには、常に新しいコンテンツを提供し、プロジェクトへの関心を高める必要があるでしょう。コンテンツの更新頻度が高ければ高いほど、顧客は離れづらいとも言えます。
この点、ゲーミフィケーションを活用し、さまざまなテーマでミニゲームをするのが効果的です。
3−3.ゲリラ・マーケティングと口コミによる話題作り
ゲーミフィケーションの力を借りれば、宣伝せずに密かに良い広告キャンペーン(ゲリラ・マーケティング)を行うこともできます。
このような広告の出し方は、ターゲット層の興味を引くだけでなく、注目を集め、噂や議論の「波」を作り出す効果もあるでしょう。
3−4.マネタイズ
マネタイズ(利益を生み出す)はゲーミフィケーションで最も重要な効果です。ゲームに興味を持ち、ポジティブな感情を与えることができれば、自然とブランドに利益をもたらすでしょう。ゲームの中で多くの広告素材を見せることができ、それに応じて購買意欲をそそるためです。
このようにゲーミフィケーションには大きな効果が期待できます。ただし、ゲーミフィケーションの形を取れば、中身はなんでも良いというわけではありません。できるだけ多くの顧客を集め、現在の顧客の興味を維持するためには、コンテンツの内容やストーリー展開を吟味し、ブランドの価値を高めるような効果的なリソースを得提供することが重要となるのです。
4.ゲーミフィケーションの成功事例:Airbnb
Linkedin、Google、Disney、Airbnbなどのトップ企業は、多くのプロセスでゲーミフィケーションを使用しています。
その中でも、Airbnbは、ゲーミフィケーションを包括的に、うまく利用している企業として挙げられます。Airbnbは、エンゲージメントの向上、コンバージョン、品質の自動制御など、あらゆる側面からゲーミフィケーションを使用しているのです。
ここでは、Airbnbのアプローチをいくつか紹介します。Airbnbの活用事例を参考にすることで、業種を問わずあらゆる企業で、ビジネス、マーケティング、品質管理、顧客との関係を改善することにつながるでしょう。
4−1.強いストーリー性
Airbnbでは、「BelongAnywhere」および「LiveThere」というキャッチコピーを全面に出しています。これはAirbnbのゲーミフィケーションストーリの根幹となるもので、この2つの言葉によって、ある場所に滞在し、そこにある家を予約することが、健康的でユニークな体験というイメージを持つようになります。
家を借りるプロセスに冒険性をもたせることで、顧客は、見知らぬ場所に行き、その生活を体験したいと思うようになるのです。
4−2.ホストへのリワードプログラム
Airbnbでは、成果を上げているホストにスーパーホストのバッジを追加します。このようなランキングモデルは、ホストのモチベーションを高め、更に高みを目指すようになります。
スーパーホスト制度は、ゲーミフィケーションを活用した、自動化された品質管理ともいえるでしょう。Airbnbは、すべてのユーザーの行動を確認し、理解するためのパラメーターとして、リワードプログラムをうまく活用しています。
4−3.創造性
創造性は、家や体験のホストになるための重要な部分です。実際、Airbnbでは家のデザインの創造性を刺激するコンテストも開催していました。
また、Airbnbでは、その家で体験できる内容のチェックリストを公開しており、このチェックリストは特定のインセンティブへとつながっています。インセンティブを与えることで創造性を刺激し、イノベーションが生まれているのです。
Airbnbでは、完全にカスタムのプロフィールの写真と説明を編集する機能やカレンダーと価格を自分で決定する自由をホストに与えています。これはホストがAirbnbサービスのメインプレーヤーとして、自らの工夫でサービスの質を上げることにつながります。
4−4.希少性
希少性の感覚は切迫感を生み出します。Airbnbはこれを2つの切り口から活用しています。1つは、特定の割合の家だけがその日に利用可能であるということ、もう1つは、人気の家はなかなか利用できないということです。このようなメッセージは需要の高さをユーザーに伝え、予約へとつなげています。
このような希少性を訴えるアプローチは、世界中の多くのeコマースプラットフォームや企業で使用されています。例えば、グルーポンでは「今日だけ割引が利用できる」というビジネスモデルで、人々は機会を逃さないように製品を購入したいという衝動に駆りたてているのです。
4−5.予測不可能性と好奇心
ホテルの部屋を予約する場合、何を経験するかはだいたい予想がつきます。Airbnbは、質の高いサービスを担保する一方で、新しい体験のためのかなりオープンなプラットフォームです。どんな体験ができるのかわからない予測不可能性が人々の好奇心を刺激してくれます。
5.スタートアップ事例
ここでは企業向けにゲーミフィケーションを採用したビジネス改善のためのソリューションや革新的なゲーミフィケーションシステムを提供している米国スタートアップ企業を紹介します。
5−1.Kalloc Studios (https://www.kallocstudios.com/home.html)
物流におけるシミュレーションは、物流サプライチェーンや作業工程を分析・管理するための手法として導入されています。シミュレーション・モデルは、よりインタラクティブで視覚的な作業を実現するために、ゲーミフィケーションの要素を取り入れた的なデザインにアップデートされてきているのです。
Kalloc Studiosは、2006年にカリフォルニア州ビスタに設立されました。同社は、バーチャルリアリティ(VR)を使って、物流における多くのプロセスを改善するソリューションを提供しています。例えば、作業の検証、設計と変更のスケジューリング、プロトタイプのシミュレーション、現場物流の修正などを対象としており、プロジェクトにゲーミフィケーションを活用しています。
5−2.Geojam(https://geojam.com/)
2019年にカリフォルニア州で創立されたGeojamは、リワードベースの音楽プラットフォームです。すべてのアクションに対して、パーソナライズされた体験やカスタマイズされた商品と引き換え可能なポイントを付与します。
革新的なテクノロジー、魅力的なインフラ、ダイナミックなマーケティングを提供することで、geojamはアーティストとファンの距離を縮めています。
5−3.memoryOS(https://memoryos.com/)
2019年にニーヨークエリアで創業したmemoryOSはゲーミフィケーションを活用したEdtechスタートアップです。同社では暗記方法を刷新し、魔法の世界をテーマにしたゲームとインタラクティブなマイクロレッスンを1つのアプリに統合しています。 memoryOSの特徴は、暗記への現代的なアプローチであり、暗記スキルを簡単に、楽しくマスターすることが可能になっています。
6.海外進出・海外展開への影響
適切なゲーミフィケーション手順を実装すると、顧客はブランド価値やブランド文化を理解し、顧客が生み出した価値を利用してビジネスを後押しすることができます。ゲーミフィケーションをうまく活用すれば、日本企業が海外市場へ展開する際の後押しにもなるでしょう。
ただし、ゲーミフィケーションでは、様々なパラメータを使用するため、開発側は深いブレーンストーミングが必要です。人間の行動を深く考え、効果的なコンテンツを作成する必要があります。