目次
1.はじめに
アメリカでは採用の際に「バックグラウンドチェック(Background Check)」というプロセスを企業側が行なうことが一般的です。バックグラウンドチェックは身元調査ということもでき、基本的には個人に関する情報をまとめたものであり、仕事の適格性を判断する際に考慮されます。
National Association of Professional Background Screenersによる2019年の調査(https://pubs.thepbsa.org/pub.cfm?id=2E440D2A-E020-605B-1A29-F3FFBDDEEA21)では、米国内の雇用主の96%が、何らかのバックグラウンドチェックを実施していることが示されました。リモートでの採用やグローバル人材の採用など、ますます多様化する労働力を背景に、安心して人材を確保するために重要性が増しているプロセスとも考えられるでしょう。
本稿では、このようなバックグラウンドチェックの概要と、アメリカで注目されているバックグラウンドチェックサービス企業を紹介していきます。バックグラウンドチェックはあらゆる業種で採用されており、ビジネス全体のトレンドを反映しているともいえます。バックグラウンドチェック自体のトレンドや、注目の新サービスについて知り、日本企業の方が海外進出・海外展開される際の参考にしていただけますと幸いです。
2.バックグラウンドチェックの概要
2−1.バックグラウンドチェックとは
バックグラウンドチェックとは、職歴や学歴、犯罪歴やファイナンシャルヒストリーなどを、専門の調査会社を通して調べるもので、選考過程で用いられます。ただし、企業がバックグラウンドチェックを行なう際には、例えば下記のようなコンプライアンスを遵守していることが必要です。
まず、公正信用報告法(Fair Credit Reporting Act:FCRA)では、企業側はバックグラウンドチェックをする前、実施の旨を採用候補者に通知し、書面による同意をとる必要があります。また、雇用機会均等委員会(the Equal Employment Opportunity Commission :EEOC)では、バックグラウンドチェックについての具体的なルールを定めています。この中では、前科があれば一律に採用禁止というような選別をするのではなく、業務の内容と照らし合わせて、それに不適格だと合理的に考えられる前科に限定して採用の検討材料にすべきとされています。
このため、バックグラウンドチェックの実施は、企業の危機管理上非常に重要ではありますが、ルールに沿って実施することに留意しましょう。そして、身元調査の代行会社を利用する際には、コンプライアンスを遵守した信頼できるビジネスとなっているか確認することが大切です。
バックグラウンド調査では、サービス提供企業によって調査項目が異なります。雇用前のスクリーニング項目としては下記のものが一般的です。
・社会保障番号
・住所履歴
・犯罪歴
・市民記録
・性犯罪者登録検索
・国内ウォッチリスト検索
・グローバルウォッチリスト検索
・雇用確認
・教育履歴の検証
・プロフェッショナルライセンスの検証
・ソーシャルメディア検索
・自動車レポート
・信用報告書
・労働者災害補償履歴検索
・薬物検査
・本人確認
2−2.バックグラウンドチェックのメリット
企業にとって、採用候補者にあらかじめバックグラウンドチェックを行なうことの一番の利点は、安全性の向上といえるでしょう。他の従業員や顧客を危険から守ったり、会社の損失や名誉を傷つける行為を事前に事前や防ぐために、採用過程では欠かせないものです。
例えば、医療系など専門的な知識や資格が必要な業種で、不適切な人を採用してしまうと、後々トラブルとなったり、顧客を危険に晒してしまったりする可能性があります。また、最近では学歴詐称も問題となっています。ある調査では雇用主の23%がバックグラウンドチェックの過程で、採用候補者の教育資格に不正確な申告が見つかったというデータもあります。(https://img.en25.com/Web/HireRightInc/%7B4e41d88e-c1d8-4112-9cfb-431461d4018b%7D_2018_HireRight-Employment-Screening-Benchmark-Report_12-FINAL.pdf)。
2−3.トレンド
バックグラウンドチェックで重視される項目は、世論やビジネストレンドを反映します。具体的には、独立請負業者、デジタル統合、薬物とアルコールのテスト、継続的な従業員の監視などの傾向が予想されています。
特に、Uberなどの配達サービスなどのギグエコノミーの仕事が増えるにつれ、オンデマンド型のバックグラウンドチェックの必要性が高まっています。雇用主はフリーランスの労働者についても、正社員の採用と同じように、バックグラウンドチェックサービスを使用して候補者を選別しています。これは、フリーランスの労働者であっても、ブランドの看板を掲げている限りは、ブランドの評価を左右する重要な要素となるためです。
また、2020年には新型コロナウイルスの影響もあり、デジタル化されたサービスに注目が集まっています。2020年の春以降、従業員の多くが突然リモート作業環境への切り替えを余儀なくされ、その影響は2021年になっても継続しています。その結果、電子署名機能など、ペーパーレス機能を備えたデジタルのバックグラウンドチェックフォームが必要になりました。さらに、バックグラウンドチェックサービスを採用管理システム(ATS)と統合するなど、採用プロセスに自動的に組み込むパッケージ型のサービスが人気となっているのです。
その他、2021年には、薬物とアルコールの検査の増加、および継続的な従業員の監視需要の増加が予想されています。リモート勤務が継続する中で、雇用主は、自宅から離れた場所にいる労働者の行動を管理する必要があり、在宅勤務の従業員の薬物およびアルコール検査を実施しているところも増えているのです。継続的な従業員の監視では、雇用前の最初のスクリーニング後、就業後の最新情報を入手することにより、雇用主がリスクを軽減するのに役立ちます。
3.注目のスタートアップや公共プロジェクト事例
ここではバックグラウンドチェックサービスを展開している注目のスタートアップ企業を紹介します。
3−1.AIを利用した身元調査プラットフォーム「Checkr」
(https://checkr.com/)
2014年にカリフォルニア州サンフランシスコで創立されたCheckrは自動化された身元調査を企業に提供し、既存のオンボーディングワークフローに簡単に統合できるようにするサービスを提供しています。Checkrのプラットフォームを使用すると、企業はオンラインフォームを介して、またはAPIを採用システムと統合することにより、採用候補者を精査できます。 同社は、社会保障番号の検証、住所履歴、性犯罪者の検索、テロリストの監視リストや国家犯罪データベースに対するチェックなど、一連の項目に対応しています。
3−2.候補者の身元調査ソリューション「Truework」
(https://www.truework.com/)
2017年にカリフォルニア州サンフランシスコで創立されたTrueworkは、候補者の身元調査ソリューションを企業に提供しています。Trueworkのユーザーは検証プロセスを自動化し、雇用や収入などの情報を簡単に検証できるようになるのです。採用時のバックグラウンドチェックだけでなく、ローンの申し込みや住宅購入の際の身元調査として導入している金融機関もあります。
3−3.ソーシャルメディアとデジタルフットプリントのチェックを行なう「Fama」
(https://fama.io/)
2015年にカリフォルニア州ロサンゼルスで創立されたFamaはクラウドベースのSaaSプラットフォームです。候補者のソーシャルメディアやデジタルフットプリントに関する洞察を雇用主に提供します。 人工知能、機械学習、人間ベースの組み合わせにより、偏見、違法薬物、差別的行動、または企業に悪影響を与える「カスタマイズされたリスク」に関する示唆を自動的に表示してくれます。
4.海外進出・海外展開への影響
従業員を採用する際に重視すべき点は、時代によっても業界によっても変化します。そのため、各企業のニーズに合わせて包括的なバックグラウンドチェックのオプションを提供してくれるサービスが必要とされているのです。企業が自分たちでスクリーニングを行なうことも可能ですが、それぞれのオンラインデータベースをひとつひとつ検索する必要があり、これは非常に手間も時間もかかる作業となります。そこで、現在では、必要な項目を一括でスクリーニングしてくれる包括的なバックグラウンドチェックビジネスの導入が一般的となっているのです。
適切なバックグラウンドチェックを行なうことで、法令遵守に従い、優良な従業員を雇用し、会社の評判を高めるのに役立ちます。また、最新のソリューションでは、機械学習などを活用して採用に関する的確なアドバイスまで提供してくれるものもあります。このようなサービスを使えば、専門知識がなくても従業員の選考を効果的に行なうことができるでしょう。
海外展開・海外進出を考えている日本企業の方は、バックグラウンドチェックビジネスについて馴染みがないかもしれません。しかし、アメリカでは欠かせない採用プロセスのひとつです。海外進出をし、現地で採用する際には、手軽に優秀な人材を確保するために不可欠なプロセスとなるでしょう。
また、AIや機械学習などのソフトウェアをバックグラウンドチェックに応用して、新しいサービスとして海外展開を行うことも考えられます。今後も需要が高いと考えられるビジネス分野であり、ビジネスチャンスとしても注目されています。