目次
1.はじめに
2022年12月にOpenAI(オープンAI)からローンチされた「ChatGPT」という新しいチャットボットが世界中を席巻し、利用した多くの人がその可能性の大きさに衝撃を受けています(https://openai.com/blog/chatgpt/)。OpenAIが公開したAIチャットボットのプロトタイプ「ChatGPT」は、あらゆる質問に対し、人間らしく丁寧に回答してくれると、多くの人の支持を集めています。
ChatGPT(Chat-based Generative Pre-trained Transformer Models)は、ユーザーが自然言語を使ってバーチャルアシスタントと対話することができる人工知能の一種です。この技術は、一般的なGenerative Pre-trained Transformer Modelの第3世代であるGPT-3の原理に基づいています。ChatGPTの大きな特徴の一つは、ユーザーの入力に基づき、リアルタイムに回答を生成する能力にあります。
本稿では、ChatGPTを生み出したオープンソースプラットフォームのビジネスモデルとともに、ChatGPTなどのAIをベースにした技術が既存のプロダクトや人々の生活に与える影響について紹介します。
2.プラットフォーム・ビジネス・モデルとは?
プラットフォームとは、多数のユーザー、すなわち消費者と事業者の間の相互作用を促進するものです。これらの相互作用は多面的であり、支払いや社会的交流などを伴うこともあります。
現在、世界的な大企業の中には、プラットフォーム・ビジネス・モデルのもとで事業を展開している例が多数あります。例えば、Apple(アップル)は、ハードウェア製品(iPhone、iPad、Apple Watch)を中心にプラットフォームを構築しました。そして、そのエコシステムの上に、Apple Store、Apple Pay、Arcade、iCloudなど、様々なサービスを重ねています。それらの各サービスは、取引手数料やサブスクリプションなどを通じて収入をもたらしています。
ほとんどのプラットフォームでは、プライバシーとセキュリティを盾に、囲い込みのエコシステムを構築しています。その結果、プラットフォームは門番として機能し、何が許容される行動で、何が許容されない行動かを決定することができます。
ひとたびプラットフォームがネットワーク効果を獲得すれば、それを破壊することは極めて難しくなります。例えば、Google(グーグル)やAmazon(アマゾン)やAppleなどは、プラットフォームモデルを元に巨大ビジネスに成長しました。
一方で、このような一部のプラットフォームが世界に大きな影響力を与える動きには、各国の規制当局が懸念を示しています。現在では、市場を圧巻する企業に対し、各国当局が独占禁止法に基づく罰金を科したり、ビジネスのやり方を改めるよう求めたりする動きが加速しています。
3.OpenAIのプラットフォーム・ビジネス・モデルが成功した理由
ここでは、OpenAIを例に、プラットフォーム・ビジネス・モデルを採用する企業が具体的にどのように収益を向上しているかについて紹介します。
OpenAIは、元々は非営利団体でしたが、2019年3月にLimited Partnership(リミテッド・パートナーシップ)に移行しました。そして、同年夏にMicrosoft(マイクロソフト)から10億ドルの投資を受けたことで、同社は一気に世間の注目を集めました。
OpenAIがユーザーから利用料金を徴収し、収益化を開始したのは、2020年5月に初公開された言語モデルの「GPT-3」のリリースからです。その数カ月後(2021年1月)には、画像生成AIの初代DALL-Eをリリースしました。 両モデルとも、API経由で利用可能となっています。
ここでは、OpenAIが製品を無料で一般公開することで得られる3つのメリットについて紹介します。
3−1.爆発的ヒット
GPT-3の改良版であるChatGPTは、2022年12月にローンチされ、5日で100万人のユーザーを獲得しました。ChatGPTは、AIの可能性について、現在激しい議論を巻き起こしています。このように無料公開し、ユーザーが様々な意見をソーシャルメディアやマスメディアに載せることは、認知度向上に大きく貢献します。
同様に、「文章による指示」(プロンプト)を元にリアルな画像やアートを生成する人工知能システムのDall-Eについても、個人アカウントでツールを利用する場合には、無料でアクセスすることが可能です。Dall-Eも、ユーザーが作成した画像における著作権や所有者に関わる議論を巻き起こすなど、バイラル効果をもたらしています。
3−2.資金調達
一般ユーザーに無料公開し、ユーザーを一気に獲得することで得られる世間からの関心の高まりは、より有利な条件で資金調達ができることにもつながります。なぜなら、世間の注目の高いサービスへの投資は、投資者のブランド認知向上にもなるためです。OpenAIが自社製品を一般に公開している理由には、同社の運営資金を大幅に拡大する期待も込められているといえるでしょう。
3−3.モデルの性能向上
GPTは、モデルの出力を向上させるために、ユーザーからのフィードバックによる強化学習(RLHF)を利用しています。例えば、ユーザーは、ChatGPTの回答に対して良し悪しを評価することができ、これは追加のトレーニングデータセットとして機能します。
その結果、同社のモデルの性能が強化され、同社製品を利用するインセンティブが高まります。口コミが増え、モデルが改善され、収益が上がるという好循環となっています。
4.ChatGPTの可能性と限界
ChatGPTには、Googleに取って代われる可能性があるという人もいます。 Googleは、現在世界で最も使われている検索エンジン(日本1位_75.59%、世界1位_91.42%)で、1998年に設立、翌年から事業を開始し、日本では2000年にサービスを開始しました。
Googleは、何十億ものウェブページをクロールし、そのコンテンツをインデックス化することで、最も関連性の高い回答の順にランキングすることで機能しています。そして、リンクのリストをユーザーに出力します。
一方、ChatGPTは、独自の検索とその情報の合成に基づいて、ユーザーに「単一の答え」を提供します。ChatGPTは、2021年後半以前にインターネット上で公開された情報に関して、数百万件のウェブサイトで学習した結果、人間らしい会話をする技術だけでなく、情報そのものを提供することができるようになっています。
例えば、ChatGPTでは、以下のような作業を依頼することができ、うまく利用すれば日々の業務を大幅に効率化できます。
カスタマイズされたメールをすばやく作成する
クライアントごとに個別のメールを書く際に、ChatGPTを使えば、わずか数秒で完了します。
複雑なトピックを解説する
あるトピックを検索しただけでは、明確な理解が得られないことはよくあります。例えば、専門用語などは、検索しても理解に落とし込むのは容易ではありません。一方、ChatGPTを使えば、すぐに簡潔な説明を提供してもらえます。
コードを作成し、デバッグし、解説する
コードのバグに遭遇した際、ChatGPTを使えば、コード内の問題を絞り込んだり、単純なミスを探す時間を省くことができます。また、ゼロから機能的なコードスニペットのブロック全体を書くことも可能です。
多言語でのコンテンツ作成ができる
ChatGPTは、複数の言語で直接コンテンツを作成することができます。
このように業務の効率化におけるChatGPTの可用性に対しては、大きな期待が寄せられています。ただし、ChatGPTの正確性には疑問視する声もあり、時には非常に基本的な間違いを起こすことがわかっています。特にプロフェッショナルな立場でChatGPTを利用する場合には、注意しなければならないでしょう。
5.海外進出・海外展開への影響
オープンソースによるサービスの市場規模は、2021年~2027年の間にCAGR17%で成長し、2027年には600億米ドルに達すると予測されています。オープンソースでは、様々なバックグラウンドや知識を持つユーザーがコミュニティ内で自由に交流できるため、フィードバックが欲しい新興企業がオープンソース内で自社のサービスやモデルを公開することもよくあります。海外進出・海外展開の際に、オープンソースプラットフォームをうまく活用すれば、新規ユーザーからの注目も集めやすいでしょう。
また、オープンソースのプラットフォームからは、ChatGPTのような画期的なツールの他にも、次々と新たなソフトウェアが生まれています。例えば、LibreCAD(2D CADソフトウェア)、Blender(3Dモデリングソフトウェア)、SimPyなどのソフトウェアです。これらのソフトウェアを活用することで、企業の業務効率を大幅に向上させることも可能となるでしょう。