目次
1.はじめに
現在、Climate Tech(気候テック)が大きな盛り上がりを見せています。気候テックとは、二酸化炭素排出量の削減または地球温暖化の影響への対処に焦点を当てた技術のことです。気候テックの業種は幅広く、エネルギー関連ビジネスから、工業や食品産業に至るまでさまざまな分野が関与しています。
米国では、環境保全への関心は非常に高まっており、気候テックのスタートアップ企業も数多く誕生しています。実際、気候テックスタートアップ企業の資金調達額は、2021年に過去最高を記録しており、パリの気候協定が調印された直後の2016年と比較して約5倍の増加となっています。本年度の具体的な調達額を見てみると、気候テックのスタートアップ企業は、2021年10月時点で、すでに320億ドルを調達したとのレポートがあります(https://dealroom.co/uploaded/2021/10/Dealroom-London-and-Partners-Climate-Tech.pdf)。
本稿では、気候テックビジネスのトレンドとともに、米国スタートアップ事例について紹介していきます。
米国の気候テックスタートアップのトレンドや先進的な大手企業の取り組みなどから、日本企業の海外進出成功へとつなげていただけますと幸いです。
2.気候テックビジネス盛り上がりの背景
気候テックビジネス急増の主な要因としては、2つ考えられます。
1つ目は、消費者需要の高まりです。消費者は、気候変動に対して特に強い懸念を抱いており、自分たちに何ができるかを模索しています。例えば、持続可能性の推進のために、エコバッグを使用したり、リサイクルや省エネに取り組みたいと考える消費者は幅広い世代にいます。特に、Z世代では、ライフスタイルそのものを持続可能的なものに変えたいと考えており、従来型の製品やサービスよりも割高だとしても、持続可能的な選択肢を好む傾向にあることもわかってきました。
つまり、電気自動車や再生可能エネルギーなどの分野で、より持続可能な技術に対する消費者の関心と需要が高まっており、この分野で技術を開発しているスタートアップ企業や既存企業の数が大幅に増加しているのは自然なことといえます。
2つ目は、政治的な背景です。例えば、英スコットランド・グラスゴーで開催された第26回気候変動枠組条約締約国会議(2021 United Nations Climate Change Conference:COP26)は、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、2020年は開催が見送られたため、2年ぶりの開催となりました。首脳級会合である世界リーダーズ・サミットでは、130か国以上の首脳によるスピーチが行われ、今後の世界的な気候変動対策の推進に向けた各国の取組が表明されました。このような世界的な気候会議は、新しいビジネスを盛り上げるきっかけとなります。
また、パリ協定への復帰も気候テックを後押しするものとなっています。実は、米国ではトランプ前大統領時代の2020年11月4日に、地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」からの離脱が決定していました(2017年6月1日にトランプ大統領が協定から離脱する考えを示し、2019年11月4日に正式な手続きが始まっていたが、2020年11月4日に正式離脱となった)。それが、バイデン大統領へと代わり、2021年1月20日にパリ協定への復帰を決定し、国連に通知。通知から30日経過後の2021年2月19日に正式に復帰が認められたという経緯があります。米国が政府として、気候変動に真剣に取組む姿勢を見せていることから、気候テック関連のビジネスはますます盛り上げっていくことが予想されます。
5,100にも及ぶ気候テックスタートアップを調べたレポートでは、投資資金の80%以上はエネルギーと運輸関連の企業に送り込まれていました。また、新しい傾向としてアグリテックなどの農業分野や食品分野の企業も増えています。これは、肥料の使用から食品の廃棄まで、排出される世界の温室効果ガスの排出量の大部分が、食品と農業が占めていることから、農業や食品関連の技術に注目が高まっていることが考えられます。
3.スタートアップ事例
3−1.住宅用太陽光発電会社 Goodleap(https://www.goodleap.com/)
カリフォルニア州サンフランシスコエリアを拠点とする住宅用太陽光発電会社であるGoodLeap社は、米国の住宅をより環境に優しいものにするというミッションを掲げ、2021年だけで10億ドル以上の資金を調達しています。
GoodLeap社は、屋上ソーラーファイナンス分野では最大企業の1つとなっており、同社は、ベンダー、消費者、金融機関をつなぐのに役立つ技術を開発しています。金融機関に提供されるソフトウェアでは、顧客満足度だけでなく財務の追跡にも役立ちます。一方、ベンダーはアプリを利用して金融機関とコミュニケーションを行い、ローンの承認を得ることができます。消費者は別のアプリを使用して、発電量、節約量、および地元の電力会社に売り戻す太陽光発電量を監視できます。
GoodLeap社では、獲得した資金を用いて、ヒートポンプ、エネルギー効率の高い窓、人工芝生の設置を支援することで、住宅改修に取り組むことを目指しています。
3−2.バッテリーリサイクル会社 Redwood Materials(https://www.redwoodmaterials.com/)
Redwood Materials社はTeslaの元CTOであるJB・ストラウベル氏が2017年に創業した、バッテリーリサイクルのスタートアップです。Redwood Materials社では、サプライチェーンを循環型へと変えることをミッションにしています。
具体的には、バッテリーセルを製造する際に出るスクラップや、家電製品(携帯電話のバッテリー、ノートパソコン、電動工具、 モバイルバッテリー、スクーター、電動バイクなど)をリサイクルする事業を展開しています。同社はB2B戦略をとっており、家電メーカーや電池セルメーカーからスクラップを回収し、その廃棄物を処理する過程で、通常は自然から採掘されるコバルト、ニッケル、リチウムなどの素材を抽出し、それらを顧客に再供給しています。
希少金属を再利用することでバッテリーのコストを削減することができだけでなく、新しく採掘する必要がないため、クローズドループシステムの構築に役立ちます。同社によるとニッケル、コバルト、リチウム、銅などの元素を電池から約95〜98%回収しているということです。
Redwood Materials社は大手企業を顧客に抱えており、パナソニック、アマゾン、AESEエンビジョンとパートナーシップを結んでいることを公表しています。
4.アマゾンが立ち上げた気候変動対策に関する誓約のための基金「Climate Pledge Fund」
米国アマゾンが20億ドルを投資して2021年6月から始めた「Climate Pledge Fund」は、地球を守るための製品やサービス、技術を生み出す企業へ投資を行う基金です。気候変動や地球温暖化を食い止めるために開発されている技術に投資することを目的としています。これまでにアマゾンは、製造業やエネルギー生成事業、食品産業や農業など、幅広い分野での11社への支援を進めてきました。
Climate Pledge Fundの投資先の一つ、Resilient Power社(https://www.resilientpower.com/)は、テキサス州オースティンを拠点とするスタートアップ企業で、電気自動車の充電技術を開発しています。同社の技術は、他のEV充電システムに比べて設置面積が小さく、短時間で設置でき、約10倍の充電速度で提供できることが特徴です。アマゾンでは、2030年までに10万台の電気自動車を導入するという目標を定めており、その目標達成のために、Resilient Power社が貢献すると見込んでいるのです。また、アマゾンではその電気自動車の製造をRivian Automotive社に委託しており、そちらにも大型投資を行っています。
Climate Pledge Fundでは、CMC Machinery社(https://www.cmcmachinery.com/)にも投資しています。CMC Machinery社は、注文商品ごとに、正確な寸法に合わせて設計された箱を開発・製造しており、緩衝材として使い捨てのプラスチック製パッドを使用する必要がありません。
その他にも、アマゾンは、カリフォルニアに拠点を置くInfinium社(https://infiniumco.com/)への投資も拡大しています。Infinium社はディーゼルやジェット機に使用される化石燃料の代わりに、航空輸送、海上輸送、大型トラックに使用できる超低炭素燃料を開発している企業です。アマゾンは2021年10月に、同社への投資をさらに増額したと発表しました。
5.海外進出・海外展開への影響
現在、気候変動は世界全体で対策が必要な問題であり、若い世代を中心として持続可能性への関心が高まっています。そして、各国が地球温暖化対策として、カーボンニュートラルについての明確な数値目標を設定しています。例えば、米国や、EU、日本などの先進国では、2050年までのカーボンニュートラルの達成と、2030年までの削減目標数値を掲げています。
このような背景もあり、現在は気候テックへの注目が非常に高まっています。気候特化型のファンドも活発に立ち上がるなど、新しいビジネスを始める際には、気候テックは注目の分野です。さらに、バッテリーのリサイクルや再生エネルギーなど、気候テックに関連する技術的な進展も大きく、今後気候テック市場は大きく成長を続けることが予想されます。
日本から海外展開をする際に、このような注目の高いビジネス分野に着目することは有効です。特に、米国ではアマゾンなどの大手企業が気候テック関連のスタートアップと提携する事例が増えています。大手企業の現地のネットワークを活用できるのは海外進出をする日本企業にとっても大きな後押しとなるでしょう。上手く現地企業と提携できれば、海外市場で一気に成長することも期待できます。