目次
1.はじめに

ここ過去10年間で、IT関連事業は世界中で前例のない成長を遂げてきました。この驚異的な成長を支えたのは、日常生活向けの電子製品の開発と、それをあらゆる側面で採り入れる消費者の増加といえます。消費者需要の高まりに伴って、製品イノベーションへの投資の増加にもつながり、その結果、新しい製品が次々と発売され、製品のライフサイクルも短くなってきています。このような背景もあり、現在では大量の電子廃棄物の扱いが大きな課題となっています。
一方で、このような課題の解決は新しいビジネスチャンスということもできるでしょう。実際、電子廃棄物リサイクル関連の新しい事業が、米国では急増しており、投資家、起業家から注目のビジネス分野となっているのです。本稿では、電子廃棄物リサイクルビジネスのトレンドとともに、米国スタートアップ事例について紹介していきます。
米国の電子廃棄物リサイクルトレンドや先進的な企業の取り組みなどから、日本企業の海外進出成功へとつなげていただけますと幸いです。
2.電子廃棄物リサイクル事業を取り巻く環境

電子廃棄物(E-waste)とは、電子機器が耐用年数の終わりに達し、廃棄物となったものを指します。コンピューター、サーバー、モニター、タブレット、プリンター、携帯電話などが主要な電子廃棄物ですが、現在のテクノロジーがあふれる時代においては、家庭用電化製品やデバイス、おもちゃ、工具、音楽機器、自動車、ウェアラブル端末など、家庭や企業で使用されるありとあらゆる製品が電子廃棄物となる可能性を有しています。
2020年の国連グローバルE-wasteモニター(Global E-waste Monitor 2020:http://ewastemonitor.info/)によると、電子廃棄物は今後世界最大の廃棄物源となることが予想されています。人の健康と環境に有害な物質を含む電子廃棄物が無造作に廃棄されることには、大きな危険があります。また、電子廃棄物の中には、コバルト、リチウム、パラジウム、銅、金などの貴金属も含まれており、リサイクルチャネルで適切に回収しないとその価値が失われるという課題もあります。
2019年には、世界中で5,360万メートルトンの電子廃棄物が生み出されていますが、リサイクルされたのはそのわずか17.4%でした。リサイクルされなかった廃棄物の中には、コバルト、パラジウム、銅、その他の鉱物などが含まれており、470億ドル相当の価値があったと試算されています。
このような状況の中で、消費者と政府は、電子機器製品とそれに含まれる資源の適切な回収を企業に強く求めるようになってきました。米国においては、電子機器のリサイクルに関する連邦法はありませんが、カリフォルニアを含む25の州が電子機器のリサイクル法を施行しています。
カリフォルニア州を例に挙げると、同州では、古いテレビ、バッテリー、コンピューター、携帯電話、ファックス機、コピー機、ステレオなど、複数種類の電子廃棄物を廃棄することは違法です。 そのため、カリフォルニアの企業では、不要となった電子機器を安全に処分する方法を見つけなければなりません。そして、カリフォルニア州では全米に先駆けて、2005年に電子廃棄物リサイクル法が制定されました。この新法は、小売業者とメーカーに、消費者からリサイクル料金を徴収させ、その資金で地方政府とリサイクル業者が、不要となった機器の回収拠点を設置するという内容になっています。この法の制定以来、州内には600以上のリサイクル施設が設立され、20億ポンド以上の量の電子機器が回収またはリサイクルされてきました。
3.企業の取組み姿勢

電子廃棄物リサイクルに対する消費者や政府からの圧力が強まる中で、企業は、電子廃棄物に対して責任ある行動をとるよう求められるようになってきました。また、ビジネスの継続的成長という意味でも、企業として、全体像を捉え、長期的な視点で電子廃棄物の取り扱いを考える必要があります。
例えば、製造業の場合であれば、製品に必要な材料金属は無限に採掘できるものではありません。ビジネスを長期的に成長させるには、これまでの線形経済から循環経済に移行する方法を考える必要があるでしょう。そして、その解決策のひとつとして、現在では多くの企業が電子廃棄物回収およびリサイクル技術に投資しているのです。
自社の電子廃棄物回収・リサイクルを進めていく中では、画期的な技術やソリューションを提供する企業とパートナー契約を締結することも有効な手段となります。以下の項では、米国でリサイクル関連のビジネスを展開し、注目を集めているスタートアップを紹介しています。新しいビジネスアイディアとして、または日本企業が海外展開する際における責任ある企業行動の体制づくりとしても参考にしてみてはいかがでしょうか。
4.スタートアップ事例
4−1.Redwood Materials(https://www.redwoodmaterials.com/)
ネバダを拠点とするRedwoodMaterialsは、2017年にテスラの共同創設者で元CTOのJB Straubelによって設立されました。電気自動車と循環サプライチェーン向けのバッテリーリサイクルビジネスを展開しています。今後、電気自動車の普及が進み、バッテリー関連の廃棄物とサプライチェーンの問題が増大することを見据えて設立されており、電気自動車や家電製品などに使用されるリチウムイオン電池をリサイクルすることに重点を置いています。AmazonやFordなど12社以上の企業と提携しており、今後の成長が期待されているスタートアップです。
4−2.Rubicon Technologies(https://www.rubicon.com/)
2008年にケンタッキー州で設立されたRubiconは、企業や政府にスマートな廃棄およびリサイクルソリューションを提供するソフトウェア会社です。 テクノロジーを使用して環境イノベーションを推進することで、既存の廃棄プロセスを改善し、企業をより持続可能な企業に、人々の生活をより環境に配慮したよりスマートな場に変える手助けをしています。
4−3.TerraCycle(https://www.terracycle.com/en-US/)
TerraCycleは、リサイクル不可能な廃棄物をさまざまな消費者製品に転用し、リサイクルしている企業です。2001年に設立され、ニュージャージー州トレントンを拠点としています。同社の特徴は、ドリンクポーチ、チップバッグ、歯ブラシなどのリサイクルしにくい廃棄物をターゲットにしている点です。これらの廃棄物から、新たなリサイクル製品として、バッグ、ガーデン製品、ギフト製品、家庭用品、オフィス製品、ペット製品、学校用品、おもちゃなどを提供しています。
4−4.Urban Mining Company(http://urbanminingco.com/)
Urban Mining Companyは、 2014年にテキサス州で設立されました。独自のリサイクルプロセスを用いた高性能磁石リサイクリビジネスを展開しています。廃棄されたハードディスクドライブやモーターから希土類磁石(レア・アースマグネット)をコスト効率よくリサイクルし、様々な産業、自動車、クリーンエネルギー、軍事防衛に使用される重要なコンポーネントである高性能磁石へと再処理する画期的な技術を開発しました。
4−5.CyberCrunch(https://ccrcyber.com/)
CyberCrunchは、2010年にペンシルベニア州で設立され、全米でコンピューターのリサイクルとハードドライブのシュレッダーサービスを提供しています。ハードウェアのデータ破壊および電子機器リサイクルサービスの二本立て事業とすることで、効率的に電子廃棄物を回収することもでき、収益化のタッチポイントも2箇所となるメリットがあります。
同社のリサイクル事業で対象としているのは、コンピューター、コンピューターアクセサリーおよびコンポーネント、モニター、ネットワーク機器、家庭用電化製品、電球、POS機器、サーバー、サーバーコンポーネント、プリンター・コピー機・スキャナー、フロンを使用した電化製品、商用非電子機器、およびバッテリー類など多岐にわたります。
5.海外進出・海外展開への影響

現在、企業として、カーボンニュートラルなど、環境への配慮を表明することが一般的となってきています。その流れに沿う形で、現在注目を集めているのが、電子廃棄物への取り組みです。
電子廃棄物のリサイクルを企業として推し進めていくことは、企業の責任という面だけではなく、貴金属などの重要資源を無駄にせず、自社のサイクル内での再利用を可能とし、コスト削減などの経営面でのメリットにもつながります。そのため、米国の大手企業は、革新的なリサイクル技術を開発するスタートアップ企業に多額の投資をしたり、提携したりと、積極的な行動を見せているのです。
日本から海外展開をする際に、このような注目の高いビジネス分野を意識することは有効です。大手企業との提携などを上手く進めることで、海外市場で一気に成長することも可能となるでしょう。
また、同分野と関係ないビジネスの場合にも、今後は企業一般に連邦、州、自治体レベルで、リサイクルへの取り組みを義務化する流れも予想されています。その際には、自社だけで解決するのではなく、現地のリサイクルサービスやソリューション提供企業などを上手く活用すると良いでしょう。