目次
1.はじめに
FacebookやTwitter、Instagramのようなソーシャルメディアプラットフォームは、世界中で多くのユーザーを抱えており、これまで直接的には知り合うことはなかったであろう個人を結びつけ、新たなコミュニティを作り出してきました。そして、現在、近隣住民が地域で起きていることを話し合うための場として、よりローカルなオンラインスペースの需要が高まっています。Nextdoorに代表されるように、ご近所付き合い専用のプラットフォームが複数誕生しており、世界中で大きな成長を遂げています。
新型コロナウイルスによるパンデミックとそれに続くロックダウンが、ご近所付き合いSNSプラットフォームの成長を後押ししたという背景もあります。これらの地域特化型プラットフォームでは、新型コロナウイルスに関する地域の情報(学校や会社の閉鎖など)のアップデートを的確にユーザーに提供することができます。そのため、より多くのユーザーとエンゲージメントを引き寄せる役割を果たしました。実際、Nextdoorでは、「ヘルプマップ」と呼ばれる機能をアプリに組み込んでおり、生活必需品の買い出しや、子どもの世話など、近隣住民への手助けを進んで引き受ける住民と、これを必要とする住民とをつなぐ仕組みを提供しており、ロックダウン中にも人々に安心感を与えてくれました。
また、Nextdoorは一般住民にとってのみ有用というわけではありません。ローカルにリーチしたいビジネスにとって、ターゲットを絞ったマーケティング活動を可能にするプラットフォームとして注目されています。海外進出や海外展開で、ローカルへの認知度を確保したいビジネスにとっては有効なマーケティング手段となり得ます。
本稿では、Nextdoorを事例に、近隣住民のためのソーシャルネットワークプラットフォームのビジネスモデルを説明するとともに、類似サービスについても紹介します。
2.Nextdoorの概要とビジネスモデル
Nextdoor(https://about.nextdoor.com/)はカリフォルニア州サンフランシスコに本社を置くご近所向けソーシャルネットワーキングプラットフォームを運営しています。同社は 2008年に Nirav Tolia、Sarah Leary、Prakash Janakiraman、David Weisen によって共同設立されました。
超ローカルなアプローチが受け入れられ、Nextdoorのユーザー数は、2019年の4800万人から、2020年には5800万人と、右肩上がりに成長しています。そして、2021年半ばの時点で、ユーザー数は6900万人を超え、全米のほぼ3世帯に1世帯の割合でアプリが導入されている計算になります。
同社は、国際的な拡大も視野に入れており、Nextdoorは11カ国で28万5000以上の地域にサービスを提供しています。
2016年まで、Nextdoorの運営はベンチャー資金で運営されていました。つまり、会社が収益を上げる必要はありませんでした。現在では、3つの異なる収益チャネルが開発されています。以下でそれらを詳しく見てみましょう。
● スポンサー投稿
ブランドや企業は、スポンサー付きの投稿を利用してNextdoorに広告を掲載できます。このスポンサー付きの投稿は、宣伝されているビジネスの近くに住んでいるユーザーにのみ表示されます。このサービスの最低月額費用は25,000ドルに設定されています。
● 近所のスポンサーシップ
予算の少ない企業は、近隣向けのスポンサーシップを購入できます。これにより、自動化された広告が、郵便番号に基づいて近隣のユーザーのみに表示されます。企業は、メッセージや投票、イベントを投稿し、一般ユーザーとの関係を構築することもできます。
Nextdoorは、郵便番号に基づいて、規模に応じた固定の毎月のサブスクリプション料金を徴収します。
● 地元のお得情報
これは、企業、個人、近隣のスポンサーが、割引やプロモーションをユーザーに共有できるように設計されたサービスです。お得な情報は、半径2マイルのユーザーに表示されます(必要に応じて後で10マイルまで延長可能)。
地元のお得情報の掲載は、3ドル程度の安価な価格から利用可能で、平均コストは75ドルとなっています。この料金は、特定のエリアのNextdoorのユーザー数と、ユーザーがお得情報を共有したい期間によって異なります。
3.Nextdoorをビジネスとして利用する際の注意点
Nextdoorには、事業者が活用できるものがたくさんあります。特に、新規市場を開拓する際には、Nextdoorを利用して、ローカルへの認知を高めることが有効です。
具体的には、以下のようなアクションをすると良いでしょう。
● ビジネスプロファイルを作成する
このプロファイルがあると、自動的に近所のネットワークに配信されます。近所のコミュニティからフィードバックを取得することで、近隣住民の全体的なニーズなどを理解するために役立てることができます。
● レコメンデーションを取得する
これは、Googleでレビューを取得することに似ています。自社ブランドが展開されている特定地域のビジネス情報や検索結果に表示されるためには、その地域からのレコメンデーションが必要となります。
● 投稿を作成する
自社ビジネスに関する最新情報を共有して、近所のネットワークに情報を提供します。例えば、以下のような情報を投稿すると良いでしょう。
・新商品や新サービス、新メニュー
・休業
・イベント
・特別セール、クーポン
● 広告の掲載をしたり、スポンサーになる
Nextdoorの有料プランを購読することで、企業は広告を掲載したり、スポンサーになったりすることができます。有料プランを介して、近隣住民へのリーチを拡大し、自社ビジネスに関する広告を掲載することで、コミュニティ内でのブランド認知度を高めることが期待できます。
Nextdoorに限ったことではありませんが、ビジネスアカウントを運用する場合には、以下のことに注意する必要があります。
・競合他社について否定的な投稿をしない
・Nextdoorが自社ビジネスを支持していることの表明
・禁止されている商品やサービスを宣伝しない
アカウントにペナルティを課されないように、利用規約違反に注意してください。
4.ネイバーフッドソーシャルネットワーク企業
Nextdoorに類似したプラットフォームには様々なものがあります。例えば、アマゾン傘下の防犯カメラ・インターホン「Ring」は、Neighborsというアプリを持っており(https://ring.com/neighbors)、ユーザーは、自宅から一定距離内の犯罪や安全に関する出来事を近隣住民に通知する投稿を作成することができます。Ringのユーザーは、ペットの迷子や近隣住民の善行を投稿することも可能です。
また、FacebookにもNextdoorに非常に似た機能「Neighborhoods」があります(https://about.fb.com/news/2021/05/connecting-local-communities-on-facebook/)。これは、近所の人がつながり、地元のニュースを共有するために設計されており、ユーザーは、サブプロフィールを作成し、ご近所グループに参加して、オープンフォーラムで地元の人とチャットをすることができます。
その他、ご近所向けソーシャルネットワーキングプラットフォームとして、以下のようなものが挙げられます。
● Nebenan(https://nebenan.de/)
創業 2015年
本拠地 ドイツ、ベルリン
● Hopplr (https://www.hoplr.com/)
創業 2014年
本拠地 ベルギー、ロケレン
● Freebie Alerts(https://freebiealerts.app/):不用品のやり取り
創業 2020年
本拠地 米国、オースティン
● OneRoof(https://www.oneroofapp.com/):マンション居住者向け
創業 2020年
本拠地 米国、ブルックリン
● Whakoom(https://en.whakoom.com/) :コミックコレクションを管理および議論するためのコミュニティ
創業 2013年
本拠地 スペイン、バルセロナ
5.海外進出・海外展開への影響
ビジネス拡大のために、口コミ拡散の活用やソーシャルメディアプラットフォームを利用した新規顧客の獲得は、今や当たり前の時代となりました。その中でも、Nextdoorのような特定地域のみをターゲットにしたプラットフォームへの注目が高まっています。
FacebookやTwitter、Instagramのような一般的なソーシャルメディアプラットフォームとは異なり、Nextdoorはすべてのユーザーの住んでいる場所に応じて、ニュースフィードが作り上げられます。そのようなニュースフィードには、世界中の友人の状況が流れてくるのではなく、同じ地域に住む仲間たちだけの情報で構成されます。例えば、地域の新型コロナウイルスの規制についての情報を探している、不用品の引き取り手を探しているなどということです。
企業にとって、このようなソーシャルメディアプラットフォームは、広告の観点から以下のようなユニークな機会を提供してくれます。
・地元のオーディエンスへのリーチ
・顧客との関係構築
・口コミによる企業への関心の向上
・他の地元企業とのネットワーク構築
海外進出・海外展開を行う際には、展開先の認知をいかに確保するかが成功の鍵を握っているともいえます。本稿で紹介した近所付き合いに特化したソーシャルネットワークサービスの特徴を理解し、うまく活用して、地元に根ざした事業拡大につなげていくと良いでしょう。