目次
1.はじめに

「自然言語処理(Natural Language Processing:NLP)」とよばれるAI技術が、ここ数年、目覚ましい発展を遂げています。NLPは現在、学術研究から実世界への普及に広がる転換点にあります。今後、何十億ドルもの価値を生み出し、産業全体を変革する技術としてビジネス分野からの熱い注目を集めています。将来的にあらゆるビジネスの構成要素になる可能性も高く、海外進出・海外展開を考える上でも、最新情報を捉えておく必要があります。
この技術革命をリードしているのが、スタートアップ企業を中心としたエコシステムです。これらの企業は、最先端のNLPを、さまざまな製品ビジョンやビジネスモデルからなる多彩な分野に適用し始めています。
本稿では、NLP関連のビジネス概況を解説するとともに、具体的なスタートアップ実例について紹介します。
2.汎用的なテクノロジーのプロバイダー

NLP関連のスタートアップには大きく分けて2つのカテゴリーがあります。そのうちのひとつが、他の組織が産業やユースケースを越えて適用できるように、コアとなる汎用NLPテクノロジーを開発し利用可能にするプロバイダーです。
NLPでは、まずモデルを作り、そのモデルをトレーニングして、トレーニングされたモデルを使って実際に機械に理解してもらうことになります。このとき、すでにトレーニング済みのモデルとして配布するものが「事前学習済みモデル(Pretrained Model)」です。
最先端のNLPモデルを構築することは、非常に多くのリソースと専門知識を必要とします。そのため、実際にゼロから独自のNLPモデルを構築している企業や研究者はごくわずかです。
今日使用されている高度なNLPは、ほんの一握りの大規模な組織が提供する事前学習済みモデル(基盤モデル、Transformers)に基づいています。これらの事前学習済みモデルには、GoogleのBERTやFacebookのRoBERTaなどがあり、多くの場合大手テクノロジー企業によって構築され、オープンソース化されています。OpenAIもまた、最先端のNLP技術を提供する重要な存在です。マイクロソフトはOpenAIに巨額の投資を行い、深い提携関係にあることから、OpenAIについても巨大企業の一部門と見なすことができるでしょう。
しかし、このカテゴリーには、若いスタートアップ企業にも大きなチャンスがあります。ここでは、汎用的なテクノロジーのプロバイダーとして注目のスタートアップ企業を2社紹介します。
2−1.Cohere(https://cohere.ai/)
Cohereはトロントに拠点を置く急成長中のスタートアップ企業で、OpenAIと同様、最先端のNLP技術を開発し、APIを介して商用利用できるようにしています。ステルススタートアップ(※)であった同社ですが、最近、ステルスモードから抜け出して1年足らずで、大規模なシリーズBの資金調達を獲得したことを発表しました。
CohereはGPT-3のような生成モデルも作っていますが、新規テキストの生成よりも、既存のテキストを分析するモデルに一層力を入れています。これらの分類モデルは、顧客サポートからコンテンツ調整、市場分析から検索まで、無数の商用ユースケースの可能性を秘めています。
※ステルススタートアップ:
外部に公表しないまま事業を運営し、世間の注目を避けているスタートアップ企業の一種。競合他社から情報を隠すため、またはパブリックイメージを管理することで期待と関心を生み出すためのマーケティング戦略の一部として機能します。
2−2.Hugging Face(https://huggingface.co/)
もう一つの代表的な汎用型NLPのスタートアップ企業は、Hugging Faceです。Hugging Faceは、機械学習技術のオープンソースとプラットフォームを提供する企業です。Hugging Faceは2016年に立ち上げられ、ニューヨークに本社を構えています。
Hugging Faceは、オープンソースのNLP技術のためのコミュニティベースのリポジトリとして非常に人気があります。OpenAIやCohereとは異なり、Hugging Faceは独自のNLPモデルを構築しているわけではありません。むしろ、オープンソースのNLPモデルの最新かつ最高のものを保存、提供、管理するプラットフォームであり、顧客がこれらのモデルを調整し、大規模に展開することを可能にしています。
Hugging Faceはそのコミュニティを強みとしており、NLPの世界の企業や研究者がコラボレーションするための場所となっています。
3.汎用NLPテクノロジーを活用するスタートアップ
ここでは、前述のコアとなる汎用NLPテクノロジーを活用して、新しいビジネスやサービスを展開するスタートアップ企業を紹介します。
3−1.検索ツール

人間が自然言語を使って機械と対話する最も基本的な方法は、「検索」です。検索は、人々がデジタル情報にアクセスし、ナビゲートするための主要な手段であり、現代のインターネット体験の中核をなしています。
検索は、単一のプレーヤー(Google)によって主に支配されてきましたが、Googleの検索体験を改善し、破壊する機会はスタートアップ企業にこそ存在しています。
Googleに最も直接的に対抗している新規参入者として、カリフォルニア州で2020年に創立されたYou.com(https://you.com/)が挙げられます。You.comは、検索エンジンを根本から捉え直そうとしており、その製品ビジョンは、水平方向のレイアウト、コンテンツの要約、そして何よりもユーザーのデータプライバシーへのコミットメントに重きをおいています。
その他にも、ニューヨーク州を拠点にするHebbia(https://www.hebbia.ai/)は、企業がプライベートな非構造化データから洞察を引き出せるようにするためのAIリサーチ・プラットフォームを構築しています。
3−2.ライティング・アシスタント
次世代NLP技術は、「書く」という行為を変革します。人間がテキストを入力すると、NLPモデルが自動的に新しい文や段落、あるいはメモ全体を生成してくれることも可能になります。文章を書くという行為を、従来の一人で行うものから、人間と機械のコラボレーションによって行うものに変えるともいえるでしょう。
このカテゴリーで最も定評のある企業のひとつがGrammarly(https://www.grammarly.com/)です。2009年に設立されたウクライナ発のITスタートアップ企業(現在はサンフランシスコ拠点)であり、同社の製品は、ユーザーが文章を書く際に、スペル、文法、語法、言い回しなどを改善するための推奨事項をリアルタイムで自動的に提供してくれます。
Textio(https://textio.com/)、LitLingo(https://www.litlingo.com/)、Writer(https://writer.com/)も、Grammarlyに似たソリューションを構築しています。この3社は、次世代の言語AIを使って、より的を絞ったユースケース向けに高度なソリューションを提供しています。Textioは雇用と採用、LitLingoはビジネスコンプライアンスとリスク管理、Writerは全社的なスタイルとブランドの一貫性に重点を置いています。
これまで紹介した4社はいずれも、人間がすでに書いた既存のテキストに対して、推奨や洞察を提供することを主な目的としてAIを使用しています。しかし、最新のNLPは、もう一歩先に進んでいます。CopyAI(https://www.copy.ai/)はテネシー州のスタートアップ企業で、カスタマイズされたマーケティングコピーを自動生成します。同社によると、50万人以上のコンテンツマーケターが同社の技術を使用しているということです。
3−3.その他
上記の実例以外にも、NLPを活用できるソリューションは幅広く、例えば以下の分野での普及が広がっています。
● チャットボットツールとインフラ
テキストメッセージ、ウェブチャット、ソーシャルメディアなどを通じて企業やブランドとデジタルコミュニケーションをとる際、人間ではなく自動エージェントが対応することが多くなっています。このようなAIを搭載した会話型インターフェースにも、NLPが活用されています。
● 社内の従業員エンゲージメント
従業員は、社内ツールのパスワードや使い方、健康保険、会社の休暇ポリシーなど、さまざまな質問を日常的に抱えています。
従業員のヘルプデスクを自動化するチャットボットは、こうした従業員からのサポート依頼の多くを自動的に処理して解決することができるため、人手を介する必要性が減り、全体として膨大な時間とコストを節約することができます。
● コンテンツ・モデレーション
誤報、ネットいじめ、ヘイトスピーチ、詐欺など、有害なオンラインコンテンツは、今日のデジタル世界における大きな問題となっています。NLPの最新技術は、このような問題を解決するための新たなツールとしても注目されています。
4.海外進出・海外展開への影響

本稿で紹介したとおり、NLP技術の応用範囲は非常に広く、今後はあらゆるサービス・製品にNLPが取り入られることが予測されます。
NLPをゼロからモデリングするのは多大な資金を必要とする大規模なプロジェクトとなりますが、多くのスタートアップ企業では、汎用的なNLPを活用して新しいサービスを立ち上げて成功を収めています。これまでNLPを活用できていなかった分野の先駆者となることができれば、海外進出・海外展開も後押ししてくれることでしょう。