目次
1.はじめに
ノーコード/ローコードツールにより、技術的な知識がまったく、またはほとんどなくてもソリューションを作成できるようになっています。これらのツールは、様々な側面からビジネス支援にメリットがあります。特に注目すべきは、ノーコード/ローコードツールのより優れた拡張性とコスト削減性であり、ノーコード/ローコードツールに対する需要が高くなっている理由のひとつです。
ノーコード/ローコードツールを必要とするのは、急成長している新興企業だけではありません。デジタル化を実現しようとしている歴史ある企業もノーコード/ローコードツールに強く興味を示しています。
本稿では、継続した成長が予測されるノーコード/ローコード開発市場について解説するとともに、米国を中心に注目のスタートアップ企業を紹介します。技術開発マーケットは、競合企業との差別化を図ることで新規参入もしやすい分野です。テクノロジー関連の新しいトレンドは、海外進出を考えている日本のテクノロジー企業にとってチャンスといえます。また、ノーコード/ローコードツールをうまく活用することで、日本企業が海外市場へと展開する場合の手助けとなる可能性もあるでしょう。デベロッパー、ユーザーの両面から本記事の情報を参考にしていただけますと幸いです。
2.ノーコード/ローコード開発の市場予測
(参照:https://research.aimultiple.com/low-code-statistics/)
2024年までに、ローコードアプリケーション開発がアプリケーション開発活動の65%以上を占めるようになると予想されています。2019年時点では100億ドルであったローコード開発プラットフォーム市場は、2030年には1870億ドルの収益を上げると予測されており、この予測はCAGR31%という非常に速いペースです。
ノーコード/ローコードツールを採用する企業も順調に増える見通しです。2024年までに、大企業の75%がITアプリケーション開発と市民開発イニシアティブの両方で、少なくとも4つのローコード開発ツールを使用するようになるという調査結果があります。新規アプリケーションのうち、ノーコード/ローコード技術を利用している割合は、2020年時点では25%未満でしたが、2025年までには70%がローコードまたはノーコード技術を使用するようになると予測されているのです。
企業の意識調査によると、41%の企業が積極的な市民開発イニシアティブをすでに有しており、20%は今後市民開発イニシアティブについて検討または開始する予定となっています。
※市民開発とは、ITの専門知識がない従業員がプログラミングをしなくてもアプリ開発ができるローコード/ノーコードのツールを使用し、現場のニーズに直接応えるアプリケーションを開発すること
3.ノーコード/ローコードの長所とは?
ノーコード/ローコードのメリットは、開発期間と開発費用を大幅に削減できることにあります。ある試算によれば、ノーコード/ローコードソリューションにより開発期間を90%短縮でき、IT開発者2人分の雇用を回避することが可能となります。
米国において、2020年のソフトウェア開発者の平均給与は、年額10万ドル以上となっています。実際の現場で開発者を完全にノーコード/ローコードツールと置き換えることは難しいとしても、ノーコードソリューションを活用することで、開発者はより難しいプロジェクトに集中できるようになります。ゆえに、企業側としては、人件費を抑え、さらに昨今の人材不足問題にも対応できるメリットがあります。
IBMの事例を紹介しましょう。保険ブローカーのLojacorr NetworkはIBMのRPAソリューションを導入して、保険や金融のプロセスを自動化するボットを構築しました。ソフトウェアボットにはコーディングの経験がほとんど必要ありません。そのため、部内の多くの人が自分で作成できたのです。こうして構築されたボットシステムにより、同社には以下のメリットがもたらされました。
● 運用をサポートするスタッフを雇用することなく、プロセスの実行効率を80%向上
● 1日あたり700件以上の決済を処理
● データの取得、処理、顧客対応スピードの高速化
● ヒューマンエラーの削減
また、MVPの観点からもノーコード/ローコードは注目されています。MVPとは、Minimum Viable Product(実用最小限の製品)の略で、新規のプロダクトを立ち上げる際に、低コスト・短期間で最小限のものを作り上げ、早いタイミングで顧客ニーズを検証するアプローチをとることです。
ノーコード/ローコードが登場する前は、スタートアップの創業者は、コードの学習に時間を費やすか、開発者を雇ってプラットフォームを作成し、製品を市場に出すためにお金を費やすしかありませんでした。MVPの構築に平均して、約75,000ドル、市場投入までに約18週間かかっていたのです。プロジェクトに多くの時間とお金を費やした後、スタートアップの事業が失敗した場合、創業者には多くの損失が残ります。
ノーコード/ローコード技術の台頭によって、MVPを構築するための平均コストは10,000ドル未満に、さらにわずか数週間でMVPを市場に投入できるようになったのです。
4.スタートアップ事例
4−1.ノーコード/ローコード開発プラットフォームを提供するスタートアップ企業
Bubble
(https://bubble.io/)
Bubbleは2002年にニューヨークで創立されました。
Bubbleではドラッグアンドドロップの操作でWebアプリケーションを構築できるプログラミングツールを提供しています。ウェブとモバイルの両方に対応しており、ユーザーにコーディングの経験は必要ありません。HTMLやCSSの知識がなくても、画像、アイコン、ビデオ、地図などを直感的に挿入可能で、モバイル端末での見た目も簡単にチェックすることができるのです。
Bubbleの特徴は、充実したUI、UXのパーツとそれに対して設定できるアクションの細かさです。Bubbleを利用すれば、簡単に本格的なサイトを構築することができます。
Zapier
(https://www.zapier.com/)
Zapierは、2011年にサンフランシスコで創業したユニコーン企業です。Zapierではノーコーディングでタスクを自動化することができるサービスを提供しています。Zapierでは、ユーザーが普段から使用しているアプリを連携させることで、反復的なタスクを自動化できます。
例えば、Gmailにファイルが添付された大量のメールがあり、それをDropboxに保存したいとしましょう。ひとつひとつメールを開いて添付ファイルをクリックし、Dropboxに保存することもできますが、数が多ければ多いほど手間がかかります。Zapierでは、このようなアプリ横断型の反復作業を自動化させて、時間と労力を節約することができるのです。
コーディングなしで、 誰でも数回クリックするだけで独自のアプリワークフローを構築可能です。
4−2.ノーコード/ローコードツールを活用して成功しているスタートアップ企業
FiveTeams
(https://www.fiveteams.com/)
ドイツで創業されたFiveTeamsは、国際的なハイテク企業の優秀な社員と、そのようなエキスパートを自社に迎え入れようとするリクルーターをつなぐマーケットプレイスです。
FiveTeamsの特徴はユーザーのプロフィールを匿名にすることにあります。匿名化プロセスにより、年齢、人種、性別などの差別を受ける可能性が低くなり、採用のプロセスが公平化されます。
FiveTeamsの採用プラットフォームは、以下に挙げる複数のノーコードツールを組み合わせて構築されています。
● ランディングページとコンテンツ管理システムにはWebflowを使用
● 採用WebアプリそのものはBubbleで構築
● Twillioによる人材へのリアルタイムSMSアウトリーチ
● 取引メールにはSendgridとMailerLiteを活用
● プロセス自動化のためのZapier
● 複雑なデータの検索・加工にAlgoliaを採用
● 支払いにStripeを使用
Lambda School
(https://lambdaschool.com/)
2017年にサンフランシスコで創業したLambda Schoolは、シンプルなブートキャンプと本格的な大学プログラムの中間を謳うオンライン・コーディング・コースを展開しています。
コーディングの学位やブートキャンプよりも実践的なスキルを身につけられるオンライン学習方法を採用していますが、Lambda Schoolのユニークさはその学費の支払い方法にあります。Lambda Schoolでは学費を前払いする必要なく、卒業後、年額5万ドル以上のIT関連の仕事に就いた場合に限り、収入の17%を上限に2年間学費を支払うことになります。
Lambda Schoolは、コーディングスクールでありながら、以下に挙げる複数のノーコードツールを組み合わせて構築されています。ノーコードだけで立ち上げたコーディングスクールということで、将来的には、ノーコードも従来のコーディングも、どちらも残っていくことが予想されます。
● 条件付きロジックが必要な学生向けアプリケーションにTypeformを使用
● エントリー面接の日程を簡単に決められるCalendlyを使用
● ZapierでSalesForceに応募者のデータを送信し、入学希望者/合格者の状況に応じた自動返信メールを作成
● WordPressにLearndashプラグインを入れ、ウェブサイト上で実際のコーディングコースを実行
Dividend Finance
(http://www.dividendfinance.com/)
Dividend Financeは、エネルギー転換を支援する金融プラットフォームです。自宅の改築を希望する人々のローン申請をデジタル化し、煩雑な手続きを省き、すべての人にとってより便利なプロセスを実現することを主なコンセプトとして掲げています。
2013年にサンフランシスコで創業した同社は、モンタナ州、ワイオミング州、ノースダコタ州、サウスダコタ州、ネブラスカ州を除く、ほぼ全米でサービスを提供中です。
Dividend Financeは、前述のノーコードWebサイト構築ツールBubbleを利用して、2種類のビジネスサイトを構築しました。一つは、自宅をよりサステナブルにしたい住宅所有者向けのソーラーパネル融資プラットフォーム、もう一つは、融資されたパネルを設置する企業向けのCRMです。
Dividend Financeは、デジタルソリューションを自社で構築しておらず、代わりにノーコードエージェンシーのAirDevに委託しています。
5.海外進出・海外展開への影響
ローコード/ノーコードツールは、ソフトウェアやコンピューターシステムの開発手法として、現在最大のトレンドといえます。ソフトウェア開発者の作業負担を軽減し、生産性を向上させ、時間も節約できるとして、様々なビジネスがこれらのソリューションを受け入れるようになっているのです。このローコード/ノーコードツール活用トレンドは、今後も継続する見込みがあり、新規事業展開としてもチャンスの大きい分野といえるでしょう。
また、ノーコード/ローコードツールには、低コストで、アイデアをすぐに形にできるというメリットがあります。市場優位性を獲得するためにも、アイデアを早い段階で市場に送り出すことは重要です。ノーコード/ローコードツールをうまく活用すれば、日本企業が短期間・低コストで海外市場へ展開できることにもつながるでしょう。