目次
1.はじめに
新型コロナウィルス拡大による自宅待機令などを受けて、アメリカでは大手企業を中心にリモートワークの継続を続々と発表しています。また、世界有数のリサーチ&アドバイザリ企業Gartnerが317社のCFOを対象に行った調査では、その74%が、少なくとも5%の従業員を通勤から在宅勤務にシフトさせ、永続的にリモートワークを続けていくと返答しています。また、全体の約1/4が20%の従業員を永続的なリモートワークへと移行させると答えているのです(https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2020-04-03-gartner-cfo-surey-reveals-74-percent-of-organizations-to-shift-some-employees-to-remote-work-permanently2)。
このことは、企業自身がリモートワークを行うことのメリットを自覚しているということでしょう。今後の成り行きが不確実な中、アメリカにおける基本的なワークスタイルが急激に変わってくるとことが予測されます。日本企業が海外展開・海外進出する場合には、現地の企業とのやり取りや、現地採用が不可欠です。その際、現地のワークスタイルを考慮したやり方をしなければ、スムーズな取引や、良い人材の雇用は難しくなります。
そこで、本稿ではアメリカで急激に変化しているワークスタイルについて、具体的な企業の事例とともに紹介します。アメリカのトレンドを把握し、日本企業が海外展開・海外進出する際の参考にしていただければ幸いです。
2.各企業のリモートワークポリシー
ここでは、大手テック企業のリモートワークポリシーについて紹介します。なお、ここで紹介する内容は2020年5月28日時点のものであり、現在は変更・延長されている可能性があります。
2−1.Facebook
Facebookは7月6日にオフィスを再開する予定ですが、2020年末までリモートワークを継続することを認めています(永続的にリモートワークを認める可能性も示唆されています)。また、5月21日にCEOのマーク・ザッカーバーグ氏が従業員に向けたライブストリームの中では、リモート勤務を前提とした雇用をアメリカ国内で開始することを発表しました。また2020年後半には世界中の従業員について、希望者がリモートワークに切り替えられるように進めていくことも語っています。将来的には、リモートワーク率50%を目指していくとのことです。
2−2.Google
Googleでは、一部の従業員については6月よりオフィス勤務を再開するものの、多くの従業員は2020年末までリモートワークを継続するとしています。Googleでは、段階的なオフィス再開スケジュールを計画しており、そこでは10%から20%の従業員をオフィスに戻すことから始め、年内に20%から30%の従業員がオフィス勤務に戻れることを目標にしています。そして、その計画では従業員は毎日オフィスに来るのではなく、週に1度という低頻度を想定しています。
2−3.Twitter
Twitterでは、新型コロナウィルスによるシャットダウンが解除された後でも、無期限に在宅勤務を許可するとしています。Twitterのオフィスは早くても9月までは再開されませんが、これにはサーバーメンテナンスを担当する従業員のように、オフィスに戻ることを義務付けられている従業員には適用されません。Twitterは大手企業としては先手を切って3月に在宅勤務への切り替えを指示しました。この背景には、新型コロナウィルスの問題が生じる前から、本社のあるカリフォルニア州サンフランシスコではなく、別の地域からリモート勤務する従業員を増やす「分散型労働力」を奨励する計画を表明していたこともあり、リモートワークへの準備がある程度整っていたことが考えられます。
2−4.Amazon
新型コロナウィルスにより、自宅で過ごす人が増える中、Amazonのような配達サービスの需要は急速に高まっています。そのため、Amazonでは4月に倉庫内で作業する従業員を175,000人追加雇用しています。このようにAmazon倉庫は需要に応答するため稼働していますが、オフィスは3月より閉鎖され、そこで働いていた従業員は在宅勤務に切り替えています。Amazonの発表によると、オフィス勤務の従業員に対して、再開の具体的な日付は設定していないものの、在宅勤務は少なくとも10月まで継続するとのことです。
3.リモートワークが従業員の健康に与える影響と企業の対策
新型コロナウィルスのパンデミックが2020年3月に発表されて以来、リモートワークへの切り替えが進んでおり、多くの企業がリモートワークを長期間継続することを決めています。
そのような中、リモートワークが従業員の身体的・精神的健康にどのような影響を与えているのかについて注目が集まっています。B2Bの研究や評価を行っている企業、Clutchが2020年6月に行った調査では、従業員の39%が新型コロナウィルスのパンデミックによる影響で仕事の生産性が低下していると感じていることが明らかになりました(https://clutch.co/hr/resources/employee-health-affected-by-covid-19)。
また、同調査によると、企業の半数以上(57%)が従業員の心と体の健康を考慮してサポートを行っており、その具体的な内訳は以下のとおりです。
● 柔軟なスケジュールで仕事を行える(28%)
● リモートワークに関する定期的なアドバイスを受ける(23%)
● 専門的なカウンセリングまたはセラピーの機会を提供する(21%)
● 有給休暇または病気休暇を増やす(14%)
● 従業員の目標値または評価基準を変更する(13%)
● バーチャルソーシャルイベントまたはコミュニティイベントを開催する(11%)
企業が行っている具体的なサポート例をいくつが紹介します。
ソフトウェア開発会社のSmart IT(https://smart-it.io/)では、新型コロナウィルスのパンデミック以降、以下のようなサポートを従業員に提供しています。
● スケジュールの変更:部署や職務の要件に応じてではありますが、従業員には「wiggle room」と呼ばれる柔軟な勤務スケジュールが提供されています。
● 病欠の拡大:従業員は診断書なしに、最大3日連続で疾病休暇を取得することができます。
● 仮想イベントの実施:従業員はさまざまな仮想イベントに参加できます。例えば、オンラインでのお茶休憩 (「SmartITea」)と金曜日のハッピーアワー(「Smart IT Bar」)を主催しています。 さらに、同社では定期的なオンラインゲームトーナメントやInstagramチャレンジというイベントも開始しています。
● 専任の人事相談員を派遣:従業員は、人事部と職場での課題と成功、会社への提案について話し合うことができます。
Googleでは、帰宅勤務の環境を整えるために購入した機器やオフィス家具に対して、最大1,000ドルまで補填すると明らかにしています。
この他にも、インターネット費用などの在宅勤務で増える負担の軽減やオンラインフィットネスプログラム、オンライン学習などの手当てを提供している企業も増えています。
4.おわりに
新型コロナウイルスの影響により、リモートワークへの圧力が世界中で一気に高まっています。特にアメリカでは倉庫勤務で従業員を危険にさらしているとAmazonに批判が集まるなど、企業のコロナ対策の一挙一動に注目が集まっています。
革新的な声明を先んじて出したのがFacebook社です。Facebook社のCEO、マーク・ザッカーバーグ氏は次のように語り、今後リモートワークを一層拡大するとしています。
“When you limit hiring to people who live in a small number of big cities, or are willing to move there, that cuts out a lot of people who live in different communities, have different backgrounds, have different perspectives“
「大都市に住んでいる、あるいはそこに移住してもよいと考えているごく一部の人々だけを採用の対象と考えていると、多様なコミュニティに属し多様な背景、多様な視点を持つ多くの人々を排除することになる(和訳)」
このように、本社はアメリカ都市部にありながら、雇用はアメリカ地方、あるいは世界中から採用するという動きは、海外進出を考える日本企業にとって歓迎できるものとなるでしょう。なぜなら、海外展開した日本企業が、現地で雇用を確保するのは簡単ではなく、遠隔地雇用はこの問題解決の糸口となりえます。
新型コロナウィルスの行方は不確定であり、在宅勤務のトレンドはしばらく続くことが予測されます。このような情勢の中で、企業としては在宅勤務へのサポートを充実させることが、従業員の満足度や生産性を高め、また優秀な人材を確保するためにも重要です。
さらに、在宅勤務の拡大を受けて、コミュニケーションやコラボレーションツール、また従業員の心と体の健康を維持するためのオンラインフィットネスやカウンセルングプログラムの需要も高まってきています。これらのジャンルは大きな成長を期待できるマーケットとなる可能性が大きいといえます。今後海外展開を考えている日本企業は、新しいビジネストレンドに注目することも、チャンスを広げるうえで重要になるでしょう。