目次
1.はじめに
従来、企業は利益の追求が一番の目的だと考えられてきました。しかし、現在では、企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility:CSR)がより重視されるようになってきています。アメリカには、チャリティやボランティアといった意識が浸透している文化が伝統的にあり、企業のCSR活動における投資額やその力の入れ方からCSR先進国と呼ばれることもあります。
最近では、 消費者の購買活動を左右する企業レピュテーション(評判)にCSRが大きな影響を与えることがわかってきました。つまり、マーケティングの観点からも、CSRはこれまで以上に重要となっているのです。
本稿では、CSR先進国であるアメリカの企業がどのように消費者の企業への期待に応えているのかについて、実例とともに紹介します。日本では、大企業が中心となってCSRを実施しているイメージがありますが、実はスタートアップ企業が自社ブランドの認知を向上させるためにCSRを積極的に行うのが最近のトレンドです。海外進出を考えているビジネス関係者の方に関心に持っていただき、アメリカをはじめとした海外でのCSR事例を海外進出のヒントにしていただけますと幸いです。
2.CSRとは
CSRとは「Corporate Social Responsibility」の略語で、日本語では「企業の社会的責任」と呼ばれています。一般的には、企業として、収益を求めるだけでなく、社会貢献の活動を行うことを意味します。
CSRにはさまざまな形があります。たとえば、金銭的な寄付、製品、時間、スタッフなどのリソースの寄付、慈善団体や社会の弱者のためのボランティア活動への参加、慈善活動を促進するための共同マーケティング、そして、企業として具体的に明確な倫理観(LGBTQに優しい、ビーガン、薬物や武器への投資なし、カーボンゼロなど)を示すことなどが挙げられます。
現在「ミレニアル世代」や「Z世代」を中心に、社会課題への関心が高まっていることがわかっています。それゆえ、これらの世代の根底にある問題意識にフォーカスしたマーケティング戦略が今後より重要となってくるのです。自社のCSRを上手くアピールすることで、自身のブランド力を高め、競合他社との差別化を図ることが期待できます。
つまり、積極的なCSR活動は消費者にとっても、企業にとってもプラスに働くのです。
3.CSRのカテゴリ別紹介
3−1.金銭的寄付
CSRを実践するための最も基本的な方法は、取引額の一定割合を慈善団体などに寄付することです。AmericanExpressとThe Chronicle of Philanthropyが実施した調査(https://www.philanthropy.com/article/most-small-companies-make-charitable-donations-survey-finds/)によると、中小企業では利益の平均6%を慈善団体に寄付しています。
また、米国では金銭的寄付を行うことで、税制上の優遇措置を受けることも可能です。ただし、税制上の優遇措置の規則は頻繁に変更されるため、IRSからの最新情報を常に確認する必要があることに注意してください(https://www.irs.gov/charities-non-profits/charitable-organizations/charitable-contribution-deductions)。
特に現在では、世界的驚異となっている新型コロナウィルス(COVID-19)に対する寄付を行う企業が増えてきています。米アップル社では早々に1500万ドル(2020年3月時点)をCOVID-19対応に向けて寄付することを明らかにしました。また、米ツイッタ社ーではジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)がCOVID-19対策に個人資産を10億ドル提供すると発表して話題となりました。
3−2.自社ブランド製品の寄付
金銭ではなく、製品やサービスを寄付することでもCSR活動とすることが可能です。その中でも特に、商品を一つ購入したら、同じ商品を一つ寄付するという社会貢献型のビジネスモデルが米国で拡大しています。このモデルの草分け的存在となっているのが、カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点とするシューズメーカー「TOMS(https://www.toms.com/)」です。2006年に設立されたTOMSは、一足の靴を購入してもらうたびに、靴一足を寄付するという「ビジネス×チャリティ」のモデルを確立しました。
TOMSのビジネスモデル成功の裏には、消費者の社会問題への意識の高まりに合致し、ミレニアル世代を中心に人気を得たことにあります。TOMSの成功をきっかけに、同ビジネスモデルは「Buy One, Give One(バイワン、ギブワン」という名称で、米国全土に広がっていきました。
例えば、医療スクラブを販売する「Figs(https://www.wearfigs.com/)」では、10万セット以上の医療用スクラブを発展途上国に寄付しています。その他にも、メガネブランドの「Warby Parker(https://www.warbyparker.com/)」や、石鹸ブランド「Soapbox(https://www.soapboxsoaps.com/」なども同様の取り組みを行っています。
3−3.ボランティア
金銭や製品の寄付が難しい場合には、従業員の時間をボランティアに割くことで社会貢献することが可能です。アメリカの大手企業の多くでは、ボランティアのための有給(Volunteer Time Off :VTO)が従業員に与えられています。
たとえば、米国カリフォルニア州に本社を置く、顧客関係管理ソリューションを中心としたクラウドコンピューティング・サービスの提供企業「セールスフォース」では、従業員に年間 7日(56 時間)の有給ボランティア休暇を提供しています。また、同社でボランティア活動上位100選に選出された従業員は、自分が選ぶ非営利団体に 1 万ドルを寄付できます。
その他、一定額まで、従業員の慈善寄付と同額を企業側も寄付する仕組みを取り入れている米国企業もあります。
3−4.グリーンイニシアチブ
グリーンイニシアチブとは、事業活動による環境負荷を低減するための様々な企業の取り組みのことを指します。それらは企業のCSR活動の宣伝となるとともに、収益にも貢献することがあります。
例えば、パッケージの削減は、原材料費を減少させると同時に、より環境に優しいパッケージデザインであると消費者にアピールできるのです。オフィスの設備をエネルギー効率の高いものにアップデートすることで、環境に配慮した企業というイメージを押し出せるととともに、冷暖房費を削減できます。
実際に、米国大手小売企業のWalmartでは、低燃費トラックを導入し、数千トンのCO2排出量削減を達成するとともに、同社の燃料費削減にもつなげました。つまり、グリーンイニシアチブは一時的な先行投資を必要としますが、長期的な視点で考えるとその投資を回収し、収益増加につながるのです。
4.CSR実施のポイント
ここではCSR活動を効果的に行うためのポイントを紹介します。
●自社の事業内容に関連する活動を行うと自社のPRに繋げやすくなります。
●無理に大きなことをする必要はありません。小さな活動であっても、何もしないよりは良いのです。自社の企業規模に即した無理のない活動からスタートし、徐々に拡大していくと良いでしょう。
●自社のCSR活動は積極的に公開します。ソーシャルメディア、ウェブサイト、製品ラベルなどを通して、必ず消費者に告知するようにしましょう。
●助けを必要としているグループや慈善団体は多種多様なので、多くの選択肢の中から、自社に合うものを探しましょう。例えば、ビッグネームの団体とチームを組むことで、自社の認知を高めることが期待できますし、地元に根ざした事業を展開している場合には、地元の慈善団体を支援することは理にかなっています。また、小さな慈善団体に対して、自社が主体となったサポートを行うことも効果的です。
5.海外進出・海外展開への影響
企業にとって自社ブランドの認知やイメージを高めることは必須ですが、多額の広告費を投じたとしても、それがどの程度効果的に働くのかは未知数です。そこで、ブランドイメージを向上させつつ、地域社会にも還元できる手法として、CSRの積極的な取り組みをお勧めします。多額の金銭的寄付を行うことだけがCSRではありません。社会の中で助けを必要としている人々に手を差し伸べる方法は様々です。
ただし、企業として声明を出す際には、ある特定のグループをサポートすることで、反感を買ったり、不快感を持たれたりするおそれもあります。近年は、企業の不適切なメッセージが炎上し、企業にブランドイメージが大きく損なわれる事案も発生しています。特に、日本企業がアメリカでCSRを行う際には、文化的な違いや社会の風潮をしっかり理解した上で、十分配慮する必要があります。
本稿で紹介した事例を参考に、企業のパブリックイメージを高めるための方法として慈善活動もご検討いただくと良いと思います。消費者感情に刺さる独自のCSRを上手く展開することで、CSRとPRの両立が可能になることでしょう。