目次
1.はじめに
モノのインターネット(IoT)が普及し、個人の家庭内にも導入されるようになってきています。これまではインターネットとは無縁だった家電類をインターネットに接続するスマートホーム化が進んでいるのです。スマートホーム化は住環境をより快適にするだけではありません。経済性や安全性も高めてくれます。
スマートホーム市場が急激に成長しつつあることを受けて、多くの企業が様々な製品の開発に取り組んでいます。特にアメリカではグーグル(アメリカ・カリフォルニア州)、アップル(アメリカ・カリフォルニア州)、アマゾン(アメリカ・シアトル)の大手テック企業が中心となってスマートホーム市場を盛り上げています。そして、スマートホーム関連のスタートアップ企業も続々と登場しています。
スマートテクノロジーが発展するにつれ、スマートテクノロジーは私たちの生活のあらゆる場面に進出しています。テクノロジーの統合は、家庭用ユーティリティ、電化製品、セキュリティ、さらにはキッチンガジェットにも広がっています。スタートアップ企業では、人々の生活をより簡単、効率的に、そしてつながりをもたらすような新しい革新的な方法を常に開発しています。言い換えれば、これまでインターネットとは縁がなかったという業界においても、参画のチャンスがあるといえるでしょう。
本稿では、アメリカを中心に、スマートホーム関連のサービスを展開するスタートアップ企業や今後のトレンド予測について紹介しています。日本よりもスマートホーム化が一般的になっている米国では、日本よりも多種多様な製品が展開されています。アメリカの大手テック企業は自社での開発だけではなく、注目の技術を持つスタートアップ企業と合同でマーケティングを行なうこともよくあります。トレンドを押さえた上で海外進出の戦略を練ることは、成功の可能性を高めることになるでしょう。
2.スマートホームのスタートアップの紹介
2−1.LIFX(https://www.lifx.com/)
LIFXは2012年創業で、現在はカリフォルニア州を拠点としている会社です。世界で初めて マルチカラーLEDスマートライトを発売したことで注目を浴び、現在では80か国以上でさまざまなスマートライト製品を展開しています。
LIFXのスマートライトにはWiFiとBluetoothが組み込まれていることが特徴で、ハブを必要としません。また、アマゾンアレクサ、グーグルアシスタント、さらにはアップルのSiriやHomekitなど様々なスマートホームステーションと連携させることができます。
2020年には世界初の抗菌スマートライト「LiFX Clean」を発表しました。これは表面と周囲の空気を消毒できる新しい試みです。
2−2.tado°(https://www.tado.com/)
2011年にドイツで創業したスタートアップ企業「tado°」は古いエアコンをスマート家電へと変身させる「Smart AC Control」を主力製品として展開しています。このSmart AC Controlでは、スマートフォンとエアコンの赤外線リモコンを接続することで、Wifi対応していない従来型のエアコンをスマート家電のように使うことができます。
スマートフォンアプリでは、人の有無や窓の開閉などを検出し、最適な温度を設定します。 その結果、冷暖房費を最大31%節約できるのです。
2−3.August Home(https://august.com/)
米国、カリフォルニア州を拠点とする企業、August Homeは2012創業です。2017年にはドア開閉ソリューション最大手のASSA ABLOYの傘下に入っています。
August Homeではスマートフォンでドアの施錠・解錠を可能にするスマートロックを提供しています。またSmart Accessと呼ばれるワンタイムパスワードを介した解錠プラットホームも展開しており、不動産会社やスーパーマーケットなどと提携したサービを提供しています。
2−4.Awair (https://www.getawair.com/)
Awairは2013年に設立され、本社は米国カリフォルニア州です。Awair Element Indoor Air Quality Monitorでは、二酸化炭素レベルを測定し、PM2.5を追跡することにより、自宅の空気の質を評価することができます。また、温度と湿度のレベルについては、AlexaとGoogleアシスタントなどのスマートホームプラットフォームに連携させることも可能です。
Awairでは最先端の空気検出技術によって時間の経過に伴う空気の質の変化とパターンを追跡できるため、家庭内の空気を最適に保つ助けとなります。
3.今後のトレンド
3−1.汎用性
スマートホーム化が進む中、アマゾン、グーグル、アップルなどの大手プラットフォームでは自社の製品やサービスとスマートホームデバイスとを連携させ、顧客の囲い込みをする傾向が高まっていました。しかしながら、この動きは消費者としては時に不便な側面ともなります。なぜなら、必要な特定のツールやデバイスがお気に入りのプラットフォームとうまく連携しない場合には利用できるオプションが制限されることになるからです。消費者の利便性や選択性を考慮すると、今後は、様々なプラットフォームで利用できるソリューションが評価を受けることになるでしょう。
3−2.全自動ロボット
現在、アメリカで普及している家庭用ロボットとしては、掃除機や芝刈り機があります。今後はより広範囲なタスクにもロボット家電が進出してくるでしょう。例えば、今注目されているのがお料理ロボットの実用化です。実際に2020年9月にはカリフォルニアのスタートアップ企業 Miso RoboticsのFlippy(フリッピー)がファーストフードでの全自動調理ロボットとして導入されました。今後、冷蔵庫の中身から自動で料理を作るなど、家庭内への応用も検討されていくことでしょう。
様々な家事をロボットに任せることができれば、人はそれ以外のことに時間を費やすことができます。また、高齢者や障害者の自立をサポートする点でも家庭用ロボットは注目されています。
3−3.在宅医療
平均余命の増加と高齢者人口の増加によって在宅スマートヘルスケアの需要が高まっています。現在すでに実用化されている製品としては、アップルウォッチがあります。これは、利用者に対して心電図(ECG)を測定して、病気の早期警告兆候となり得る心拍のパターンを監視できるのです。このタイプのテクノロジーは高齢者や持病がある人の暮らしをサポートするとともに、医療機関の負担を減少させます。
24時間リアルタイムに健康状態を自動監視することで、わざわざ外来に行く必要性が減少するのです。また、医療機関訪問時にそのデータを提供すれば、より的確な診断や治療が可能となるでしょう。
3−4.高速なネットワークによるスマートホームの普及加速
次世代通信規格「5G」によってスマートホームはより使いやすくなると考えられます。これまで自宅固定回線の無線LANに接続していたスマートホームデバイスを5Gのネットワークに直接接続するようになれば、スマートホームに大きな変革をもたらすことになるでしょう。また、無線LANの「Wi-Fi 6」やネットワークの「IPv6」対応も進んでおり、スマートホーム化を加速させる環境がより整備されてくると予測されます。
ネットワークの高速化は、デバイス間のデータ転送が高速となるだけではありません。より大きなデータストリームを利用できるので、より多様で最新の情報にアクセスして、スマートホームデバイスの機能性を向上させることもできるのです。
4.海外進出・海外展開への影響
アメリカでは、2019年12月「Project Connected Home over IP」というホームオートメーション、スマートホーム、IoTなど様々なデバイスやソフトウェアの互換性を確保するオープンソースの接続標準化プロジェクトが始まりました。このプロジェクトを主導しているのはアメリカの大手テック企業であるアマゾン、グーグル、アップルなどで、スマートホーム市場全体の拡大を目指していると考えられます。
世界最大の統計プラットフォームStatista (スタティスタ) のデータ(https://www.statista.com/outlook/283/100/smart-home/worldwide)によると、スマートホーム市場の全世界収益は、2021年には99,537百万米ドルに達すると予測されています。さらに、2025年までに175,985百万米ドルにまで市場規模が拡大することが予測されており、この場合の年間成長率は15.3%にも上ります。世界の中でも米国がスマートホーム市場の主要プレーヤーとなっており、ほとんどの収益が米国で生み出されていることが明らかになっています(2021年には28,864百万米ドル)。
また、アメリカでスマートホームビジネスを先導している大手テック企業は新しい技術の導入にも積極的です。例えば、グーグルでは、ネストやラボを買収して、スマートホーム化競争で優位性を得ようとしました。つまり、アメリカへの海外進出を考えている日本企業にとって、このトレンドの波に上手く乗ることができれば、大きな成長が期待できます。