目次
1.はじめに

オンデマンド印刷(Print On Demand: POD)とは、ECビジネスモデルの一つであり、サプライヤーと協力して、シャツ、帽子、マグカップ、カレンダーなどをカスタマイズされた製品として販売するビジネスです。オンデマンド印刷のビジネスでは、デザインを考案して受注するだけで、サプライヤー側が印刷から梱包、配送までの残りのプロセスを処理してくれます。大手ECサイトと提携しているサプライヤーを利用できれば、自社サイトを作る手間などもなく、すぐにビジネスをスタートできるのです。
オンデマンド印刷はドロップシッピングビジネスの一種とも考えることができます。つまり、オンデマンド印刷ビジネスにおいては、在庫を購入または保管する必要がなく、間接費を低く抑えられるのです。
ここでは、オンデマンド印刷について概説するとともに、オンデマンド印刷ビジネスを始める方法や、米国におけるオンデマンド印刷の主要サプライヤーについても紹介していきます。EC業界は海外進出しやすいタイプのビジネスであり、本業界で成功しているビジネスを参考にすることは、日本から海外進出する足がかりともなるでしょう。
本稿の内容を参考に、日本企業の方が海外進出・海外展開される際の、参考にしていただけますと幸いです。
2.オンデマンド印刷のビジネスモデル誕生の背景

1990年代まで、パーソナライズされた製品は主に企業のビジネスプロモーションに使用される販促品として存在していました。つまり、企業が自社の宣伝のためにブランドロゴの入った様々な商品(メモ帳やキーホルダー、栓抜き、ペンナイフ、ペンスタンド、ペン、コーヒーマグなど)を制作し、ノベルティグッズとして配布していたのです。
しかし、2000年代以降、パーソナライゼーションサービスのあり方は大きく変わっていきます。いつでもどこからでも買い物ができるという利便性により、EC業界が急成長。巨大マーケットとなったEC業界内での競争が激しくなり、企業は顧客を引き付けるために他との差別化を図ることを余儀なくされました。その中で、大きく注目されたのが製品のパーソナライズ化です。自分たちのために特別にデザインされた製品は、消費者心理を刺激します。衣料品からジュエリー、家具、ギフトアイテムに至るまで、独自性を追求する人々が、パーソナライズやカスタマイズの商品を好んで購入するようになっていったのです。
こうして、パーソナライズの重要性が増すにつれて、ECビジネスにも新しいモデル「オンデマンド印刷」が生まれました。事前にデザイン、印刷された製品を販売するという従来のビジネスモデルではなく、顧客の要求に応じて印刷した製品を1枚から販売するというビジネスモデルがヒットしたのです。

3.オンデマンド印刷ビジネスのメリット
オンデマンド印刷において、最小の注文単位というものは基本的にありません。つまり、非常に低コストでビジネスを開始して運営することができます。また、売れ残りが在庫に残ることを心配する必要もないのです。
ここではオンデマンド印刷ビジネスのメリットについて4つの観点からより詳しく解説します。
3−1.既存のECサイトとの統合することですぐにビジネスを始めることが可能
オンデマンド印刷では、独自のオンラインストアを最初から制作する必要はありません。Amazon、eBay、Shopify、EtsyなどのECプラットフォームと統合することで、巨大なECビジネス市場に自由に参入することができるのです。このようなパートナープラットフォームを利用すれば、注文を処理する技術的な側面だけでなく、ビジネスの立ち上げや成長に役立つリソース享受することも可能となります。すでに用意されているテンプレートやノウハウを用いて、ECビジネスをすぐにスタートできるので、ビジネス参入への障壁は非常に低いといえるでしょう。
3−2.自動化ツールで省力化が可能
最初の製品登録さえしてしまえば、あとはサプライヤーとECサイトの連携により自動的に利益を生み出す可能性があるのがオンデマンド印刷ビジネスの特徴です。 注文〜配送までの一連の流れを自動化することで、自分たちの負担が減り、その分マーケティングなどに十分な時間をかけることができるでしょう。
3−3.パートナーシップによって初期投資を削減可能
オンデマンド印刷ビジネスでは、印刷機器を購入する必要も、印刷方法を学ぶ必要もありません。そのため初期投資を限りなく小さくしながら、独自商品を展開することが可能です。
必要なのは信頼できるサプライヤーを見つけることだけです。オンデマンド印刷サービスはホワイトラベル型のビジネスであり、実際にはサプライヤーが受注・生産しているとしても、顧客側には当該ブランドの製品として販売しているように見えるのです。
3−4.新デザイン、新製品開発が容易

オンデマンド印刷では、新しいデザインを簡単に試すことができます。様々なデザインを用意すれば、顧客から人気があるデザインを分析することも容易でしょう。各製品はオンデマンドで印刷されるため、売れない可能性が高いとしても、そのリスクは大きくありません。人気のないデザインは、ECサイトから簡単に削除することができます。
デザインだけでなく、商品も試すことができます。売れ行きのいいデザインを他のアイテムに転用することも簡単です。例えば、ステッカーで人気の出たデザインがあれば、それをTシャツや、バッグや帽子などへと、種類を拡大するのも良いでしょう。
4.主要サプライヤー
人気のあるオンデマンド印刷のサプライヤー企業として、PrintfulとPrintifyが挙げられます。この2社は米国のオンデマンド印刷サプライヤー企業の2強ともいえ、市場シェア獲得のため多額の投資を行っています。ここではPrintfulとPrintifyの2社とともに、大手ECサイトAmazonが提供しているオンデマンド印刷「Merch by Amazon」について紹介します。
4−1.Printful(https://www.printful.com/)
Printfulは、オンデマンド印刷の直送およびフルフィルメントをしている会社です。 同社は、オンラインビジネス向けにカスタマイズされた衣料品、アクセサリー、家庭用品、生活用品に対するオンデマンド印刷を提供しています。
Printfulは、2013年にノースカロライナ州で設立されました。それ以降、3,200万以上のアイテム総数提供実績を持っており、2020年には、収益2億ドル超えのマイルストーンを達成しました。 Printfulでは、米国、カナダ、ヨーロッパ、メキシコに9つのフルフィルメントセンターを備えており、日本とオーストラリアにもパートナー施設を有しています。
さらに、Shopify、Etsy、WooCommerce、Wix、Squarespaceなどの人気ECプラットフォームやマーケットプレイスとも統合しています。価格帯としては類似企業に比べてやや割高ですが、ここまでの実績に裏付けられた信頼感の後押しもあり、米国内の主要プレーヤーの座にあるのです。
4−2.Printify(https://printify.com/)
Printifyはオンデマンド印刷のドロップシッピングプラットフォームです。Printifyを使用すると、ユーザーはアパレル、アクセサリー、インテリア雑貨など、何百もの製品を選択、カスタマイズ、製造し、eBay、Etsy、Shopifyなどの主要なECプラットフォームでそれらの製品を販売できます。
Printfulは、2015年にカリフォルニア州サンフランシスコで設立されました。Bling Capitalの投資先企業でもあります。
Printifyではオンラインマーチャントがシンプルかつ簡単な方法で売上につなげることをミッションに掲げており、スピード感と柔軟性に定評があります。
4−3.Merch by Amazon(https://merch.amazon.com/landing)

Merch by Amazonは、大手ECサイトAmazonが提供しているオンデマンドのTシャツ印刷サービスです。 このサービスを利用すると、出品者はTシャツのデザインを無料で作成して一覧表示できます。 前払い費用はなく、顧客がシャツを購入するとロイヤルティが支払われる仕組みです。 デザインをアップロードし、色を選択して価格を設定するだけで、あとはAmazonに一任する形となります。
出品者のダッシュボードでは、デザインをアップロードしたり、Tシャツを宣伝したり、売り上げを分析したりできます。 初期設定では、作成できるデザインは25までに制限されていますが、シャツを25枚販売すると、最大100種類のデザインを作成できるTier2にアップグレードされます。このような階層型システムは、高品質のデザインを作成した人に報酬を与え、スパム行為を防ぐのに役立ちます。+
5.海外進出・海外展開への影響

カスタマイズできる商品を販売する動きが、EC業界で急速に広がっています。実際、世界のカスタムTシャツ印刷市場規模は2020年に36.4億米ドルと評価されており、2021年から2028年まで年平均成長率(CAGR)9.7%で拡大すると予想されています。
カスタムデザインは、企業のブランディング戦略の一つとして、企業がブランドの認知度を高め、見込み客の注目を集めるために使用されることもよくあるものです。さらに、最近では個人がサイドビジネスとしてオリジナルのカスタマイズ製品を制作、販売することも増えてきました。
この背景には、消費者のトレンドとして特定のロゴやスローガンが印刷されたカスタマイズTシャツを着ることを好むようになったことがあると考えられます。特に、社会的意識を高め、声を上げ、支持を示すために、消費者一人ひとりの意思でカスタムプリントを使用することも増えています。
このようなカスタマイズ製品を支えているのがオンデマンド型の印刷サービスです。オンデマンド印刷のサプライヤーは米国を中心として複数あります。サプライヤーを介することですぐにビジネス参入することができるのは大きなメリットです。現地の情報やコネクションなどは全く必要なく、デザインだけ決めさえすれば簡単に発注できるため、海外進出を考えている日本企業にとってもハードルは低いといえるでしょう。
