目次
1.はじめに
グリーンテクノロジー(グリーンテック)は、環境に優しい製品やサービスを生み出すための科学テクノロジーを示す用語です。より具体的には、エネルギー消費、廃棄物、または環境への悪影響を削減しながら、運用パフォーマンスを向上させる製品またはサービス分野をグリーンテックということもできるでしょう。現在、グリーンテック市場に参入する新規企業も多く、大きな投資資金を集める急成長産業となっています。
また、グリーンテックの使用は、企業の社会的責任という意味でも注目されています。企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility:CSR)とは、企業は利益を追求するだけでなく、環境問題や人権問題への対応をはじめさまざまな社会的な責任を果たすべきとする考え方やその取り組みのことです。CSRに熱心に取り組んでいる企業では、ステークホルダーとよりよい関係を築くことができます。長期的な視点で事業活動を継続・発展していくために不可欠な要素といえるでしょう。
また、これを受けて社会的責任投資(Socially Responsible Investment:SRI)という言葉も生まれるほど、CSRへの取り組みは企業が資金を調達する上で重要視されるようになっているのです。この傾向は日本に比べるとアメリカでは特に顕著であり、近年はグリーンテックの使用を、企業の環境・社会・ガバナンス(Environment、Social、Governance:ESG)の声明に含める米国企業も多くなっています。今後グリーンテックの需要はますます高まっていくと考えられます。
ここでは、アメリカのグリーンテック市場について概説するとともに、注目のグリーンテック企業について紹介します。話題のビジネスモデルを参考にすれば、日本から海外進出する足がかりへと応用できる可能性があります。また、アメリカへの海外進出を考えている企業にとっては、ここで紹介したグリーンテックを自社にも導入し、CSRへの積極的な取り組みをアピールすることも可能です。日本企業が海外進出・海外展開される際の、参考にしていただけますと幸いです。
2.グリーンテック市場
グリーンテクノロジーをはじめとした持続可能性関連の市場規模は、2020年の98億米ドルから2027年までに564億米ドルに成長し、2021年から2027年までの間に28.4%のCAGRで成長すると推定されています(https://marketdigits.com/green-technology-and-sustainability-market/)。
このようにグリーンテクノロジー市場が成長していく要因のひとつは、技術の革新です。経済的で費用効果が高く、環境への害が少ない新しい技術が次々と生まれています。このような技術は採用する企業にとってもメリットが大きいものです。その結果、開発と採用の好循環が生まれ、市場規模が急成長していると考えられます。
世界におけるグリーンテック市場の最大のプレーヤーとなっているのが、アメリカです。今後も、アメリカが中心となって、世界市場をリードすることが期待されています。
3.グリーンテック市場で注目の新規参入企業の紹介
ここでは米国カリフォルニア州のグリーンテック企業や、大手テック企業の取り組みについて紹介します。
3−1.カーボン・オフセットをサポートするWebアプリを展開するWren
(https://www.wren.co/)
Wrenは、2019年にカリフォルニア州サンノゼで設立されました。同社では、一人ひとりが気候変動に対して行動したい気持ちをサポートするツールを構築しています。Wrenはサブスクリプション型のサービスです。
具体的には、Wrenのユーザーはまず、住んでいる地域、移動方法、電力とガスの使用量、購買量などの複数の要素を入力し、自分自身の二酸化炭素排出量を把握します。ここで示される二酸化炭素排出量とは、商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算したもので、カーボン・フットプリントと呼ばれています。
その後、ユーザーには二酸化炭素排出量を相殺につながるアクションをワンクリックで選択することができる仕組みです。つまり、カーボン・オフセット(人間の経済活動や生活などを通して「ある場所」で排出された二酸化炭素などの温室効果ガスを、植林・森林保護・クリーンエネルギー事業による削減活動によって「他の場所」で直接的、間接的に吸収しようとする考え方や活動)を容易に実現してくれるツールともいえます。
企業として、Wrenを導入するケースもあり、この場合、導入企業は自社のカーボン・オフセット活動をわかりやすい形でアピールすることが可能です。
3−2.次世代型ソーラーパネルを開発するSunverge Energy
(http://www.sunverge.com/)
Sunverge Energyは2010年にカリフォルニア州サンフランシスコで設立されました。同社では、自家発電機や、太陽光発電、蓄電池、デマンドレスポンスによるピークカットなどの分散型エネルギーリソースをリアルタイムに制御および集約するプラットフォームを提供しています。
Sunvergeのマルチサービスバーチャルパワープラント(VPP)プラットフォームは、サービスの動的かつ多目的な最適化が特徴です。Sunvergeを導入した顧客は、インフラストラクチャへの投資をより柔軟に管理し、発電コストを削減することができるため、再生可能エネルギー発電とユーティリティをインテリジェントに管理することが可能となるのです。
SunvergeEnergyでは、住宅を所有する個人顧客だけでなく、中小企業、公益事業、および電力関係の規制当局にもサービスを提供しています。
3−3.Googleのカーボンフリーに向けた取り組み
(https://sustainability.google/commitments/)
Googleの親会社であるAlphabetは、2020年9月、データセンターやオフィスの運営に使用する電力について、2030年までに完全にカーボンフリーにする計画を明らかにしました。
Googleでは、すでに風力や太陽光などの再生可能エネルギーを積極的に取り入れており、2019年度に関して、Googleが使用した電力の61%が再生可能エネルギーによるものだということです。また、Googleでは2007年以降、カーボン・オフセットにより温室効果ガスの排出量を相殺し、実質ゼロとする「カーボンニュートラル」を達成しています。
2030年までの完全カーボンフリーを達成するには技術的・政治的な打開が必要であり、Googleは太陽光エネルギーを夜間に蓄積するバッテリーや、新たな資源として注目される地熱エネルギー、電力需要の管理改善などに取り組む考えです。
3−4.Apple
(https://www.apple.com/newsroom/2020/07/apple-commits-to-be-100-percent-carbon-neutral-for-its-supply-chain-and-products-by-2030/)
2020年7月、Appleは2030年までに製造サプライチェーンと企業全体で100%カーボンニュートラルを目指すことを発表しました。実は、Apple自体の企業活動においてはすでにカーボンニュートラルを実現しています。今回の声明では、サプライチェーンも含め、全てのApple製品を100%クリーンエネルギーで作ることを目指すとしています。
この新しい目標に向けて、Appleでは具体的に以下の施策を発表しています。
① 低炭素の製品デザイン:
Apple製品に低炭素の再生材料を使用し、革新的な方法で製品のリサイクルに取り組み、可能なかぎりエネルギー効率が高くなるような製品デザインとする
② エネルギー効率の拡大:
エネルギー使用を削減する新たな手法を確立するとともにし、Apple社だけでなくサプライチェーンでも同じ手法を採用するように働きかける
③再生可能エネルギー:
すでに達成している自社内での100%再生可能エネルギーによる企業運営を継続するとともに、新規の電力プロジェクトを実行。サプライチェーン全体をクリーンエネルギーに移行させる
4.海外進出・海外展開への影響
現在、グリーンテック市場は、規模の大小を問わず盛況です。将来的にも市場拡大が継続する見込みであるため、様々なスタートアップ企業が誕生しています。更に、GoogleやAppleなどの大手テック企業は、グリーンテック産業のリーダーとして業界を牽引、自社だけでなくサプライチェーンに対してもカーボンフリーを約束するなど、一歩踏み込んだ取り組みをしているのです。
このようなトレンドの中で、海外進出を考えている企業にとって、グリーンテック業界は注目すべきエリアです。ニッチを上手く捉え、新しいテクノロジーなどを用いた製品・サービスがあれば、一気に海外市場へ展開できる可能性もあります。
また、グリーンテックとは関係ない業界・企業にとっても、このトレンドには注意が必要です。なぜなら、カーボン・オフセットなどの達成目標がサプライチェーン選定の条件とされるなど、この視点はグローバルビジネスにおいて不可欠な要素となっているからです。海外進出の幅を広げるためにも、各社でできるところからグリーンテクノロジーを導入してみると良いでしょう。