目次
1.はじめに:カーボンニュートラルへの取り組みとは何か
カーボンニュートラルとは、人間活動による二酸化炭素(CO2)排出量と、それを吸収・削減する活動のバランスを取り、正味のCO2排出量をゼロにすることを意味します。これは、地球温暖化の主要な原因である温室効果ガスの排出削減を目指すグローバルな取り組みであり、さまざまな産業セクターでも温室効果ガス削減が進められております。その中でも、自動車産業では電気自動車(EV)への転換に焦点が当てられています。
特に米国では、EVの普及を促進するための政府の支援策が存在し、EVバッテリーの生産を奨励する融資や、EV購入に対する消費者向け税控除優遇措置を設けることで、多くの企業がEV生産に取り組んでいます。この動きに日本企業も注目し、新たな市場開拓や消費者の流出防止のために、米国でのEV製造拠点の設立や拡大を検討しています。
本稿では、これらの動向と米国市場の可能性について詳しく解説します。
2.米国企業の取り組み:カーボンニュートラルへの道
米国企業のカーボンニュートラルへの取り組みは目覚ましく、特に自動車産業においては、EVの生産拡大に注力しています。テスラを始めとする新しい企業が自動運転システムを搭載した高度なEVを次々と開発し、その流れに既存の大手自動車メーカーも追随しています。政府政策によるEVバッテリー生産への支援や、消費者向けの連邦および州税優遇策を活用することで、環境への負荷を低減し、ビジネスの成長を実現しています。
一方、日系の米国法人もこの動向を捉え、独自の戦略を展開しています。トヨタをはじめとする大手自動車メーカーは、既存のガソリン車の生産体制を保ちつつ、EVへのシフトを進めています。また、バッテリー技術の研究開発や、米国のベンチャー企業との協力を通じて、新たな市場の開拓を図っています。これらの取り組みは、日本企業の米国市場でのさらなる展開を予感させます。
3.米国の自動車産業とEV(電気自動車)への転換
米国の自動車市場は、世界最大の市場の一つであり、その規模と成長性は今後も高い水準を維持すると予測されています。2021年には米国の自動車市場は約1,590万ドルと評価され、2029年にはさらに約3,780万ドルに成長すると予測されています。そして、この予測期間中の年間複合成長率(CAGR)は13.17%となる見込みとなっています( https://www.maximizemarketresearch.com/market-report/automotive-market-in-us/86405/ )。
この成長の背後には、EVへの転換が大きく影響しています。気候変動対策や持続可能な社会への移行を目指す政府の政策と消費者の環境に対する意識の変化が、自動車産業における革新的な変化を促しています。特に、テスラを筆頭とした新興EVメーカーの成功は、他のメーカーにも大きな影響を与え、産業全体のEVへの転換を加速させています。
米国におけるEVの販売台数は、近年、急速な増加を見せています。2021年時点では全新車販売のわずか約3.4%にとどまっていましたが、今後大幅に増加し、2030年には全新車販売の約29.5%にまで達すると予想されています。
具体的な台数を見てみると、この成長はさらに顕著です。2021年には約50万台が販売されましたが、2030年にはその約10倍にあたる470万台まで増加すると予測されています( https://evadoption.com/ev-sales/ev-sales-forecasts/ )。
これらの予測は、米国の自動車市場におけるEVの地位が確実に向上していることを示しています。そして、この急速な成長は、新たな市場参入機会を示すとともに、競争が激化していくことを予兆しているともいえるでしょう。そのため、日本企業は戦略的な計画と早期の行動が必要となります。技術の進化や消費者のニーズに対応し、持続可能な成長を実現するための製品開発と投資が求められます。
4.日系企業は米国での新たな拠点拡大へ
4−1.米国におけるEV生産のメリット
米国におけるEV生産には、数々のメリットがあります。その中でも特筆すべきは、世界最大級の市場への直接的なアクセスです。現地生産を行うことで、市場の動向を迅速に把握し、製品の改善や新製品開発に活かすことができます。また、供給チェーンを短縮し、輸送コストを削減することも可能です。
さらに、米国では、EVに対する政策支援が積極的に行われています。前述のとおり、政府政策によるEVバッテリー生産への支援や、新規クリーン車に対する税額控除など、製造業者と消費者の両者にとって有利な制度が用意されています。これらのインセンティブを活用することで、EV生産の初期投資を軽減し、事業の収益性を向上させることが可能です。
4−2.日系企業による米国拠点拡大
日系企業による米国でのEV生産拡大の動きは活発で、例えば、最近では以下のような大型投資が話題となっています。
まず、トヨタは、2025年からケンタッキー州の工場で新型電気自動車SUVの生産を開始すると発表しました( https://www.greencarreports.com/news/1138832_report-toyota-might-start-ev-production-in-kentucky-in-2025 )。さらに、2024年に新設予定のノースカロライナ州の車載用電池工場に、21億ドルを追加投資することも明らかになっています( https://www.reuters.com/business/autos-transportation/toyota-pledges-21-bln-more-ev-battery-plant-north-carolina-2023-05-31/ )。この新工場では、ケンタッキー州の工場で生産される新型車のバッテリーも生産される予定です。
同様に、日産自動車も米国での電気自動車生産を拡大するための投資計画を発表しました。同社は、2026年までにテネシー州の部品工場に2億5000万ドルを投資し、EVのモーターやその他の中核駆動用部品の現地生産を拡大する予定です( https://insideevs.com/news/632714/nissan-invest-250-million-usd-us-plant-that-makes-leaf-e-motors/ )。
これらの発表から分かるように、日系企業は米国でのEV生産に本格的に乗り出しており、そのために新たな生産拠点を拡大していることが分かります。
4−3.日系企業が米国拠点拡大を進める背景
北米(米国、カナダ、メキシコ)でのEVの製造は、自動車メーカーにとって競争優位性を生み出す重要な戦略となっています。2022年のインフレ抑制法(IRA)の改正により、北米で「最終組立て」が行われたEVの購入者には、最大7,500ドルの税額控除を受ける資格が与えられました( https://www.irs.gov/credits-deductions/credits-for-new-clean-vehicles-purchased-in-2023-or-after )。ここでの「最終組立て」とは、「メーカーが新型クリーン車両を製造し、その車両に必要なすべての部品を組み立てて完成させ、それをディーラーや輸入業者に提供する過程」と定義されています。
この政策により、消費者はEVの購入コストを大幅に削減できるため、北米で製造されたEVに対する需要が一層高まると予測されています。別の見方をすれば、これは、米国における生産拠点を持つ自動車メーカーにとって大きなメリットをもたらします。特に日系自動車メーカーは、米国における製造拠点を強化することで、競争優位性を高めることが可能となります。
北米でのEV製造拠点を確立することで、日系自動車メーカーは消費者に対する価値を提供するだけでなく、自身のブランド価値と市場シェアを拡大させることができます。また、地域の雇用を促進し、環境にもプラスの影響をもたらす可能性があります。このような政策と戦略により、EV市場における日系メーカーの存在感が一層増すことでしょう。
5.日本企業が進出すべき理由:米国市場の可能性とチャンス
日本企業が米国のEV市場に積極的に進出することは、未来の自動車産業に向けた重要な一歩であり、新たな可能性を広げる機会です。米国はその市場規模と技術革新により、グローバルな自動車産業における主導的な役割を果たし続けていくことが予想されます。そして、政策の後押しにより、EV市場はこれからも確実に拡大していくでしょう。
日本企業が海外に進出する際には様々な挑戦が伴いますが、それらを乗り越えることで得られる経済的なメリットとブランド価値の向上は計り知れません。特に、米国でのEV製造拠点の確立は、消費者に直接的な価値(税の優遇)を提供し、同時に自社の競争力を高めるチャンスを提供します。
日本企業が米国市場への進出を検討する際には、米国の豊富なリソースおよび巨大な市場規模を活用できるよう、政府の推進施策に乗ることが重要です。また、市場のトレンドを抑えた戦略を練ることは、日本企業がグローバルな競争において一歩リードするための重要なチャンスにつながるでしょう。