目次
1.はじめに
今日では、ビジネスのグローバル化がますます進んでおり、海外での成功は、多くの企業にとって重要な目標となっています。では、競争の激しい海外市場で、自社ブランドの差別化を実現し、顧客とのつながりを強化するにはどうすればよいのでしょうか。
そこで注目したいのが、ブランドストーリーテリングです。ブランドストーリーテリングとは、製品やサービス、またはブランド自体の背後にあるストーリーを伝えることで、顧客とのつながりを強化し、商品やブランドを有意義で興味深いものにする戦略のことを指します。強力なマーケティングとして、多くの米国企業がブランドストーリーテリングを採用しています。
本稿では、ブランドストーリーテリングのメリットについて説明するとともに、米国企業の実例と実践方法についても紹介します。
2.ストーリーテリングのメリット
海外市場で成功を収めるためには、製品やサービスを販売するだけでなく、顧客と深い関係を築く必要があります。ストーリーテリングを活用することで、企業は、顧客とのつながりを持つことができ、信頼を築き、ブランドを記憶に残るものにすることができます。
ここでは、ブランドストーリーテリングのメリットをご紹介します。
2−1.差別化
ブランドストーリーテリングは、競合他社が多数存在する市場において、企業が差別化するために特に役立ちます。感情的なつながりを持つ魅力的なストーリーを顧客に提供することで、ブランドは際立ち、顧客の心に深く印象づけることができます。
2−2.感情的なつながり
ストーリーには、喜び、悲しみ、共感などの感情を呼び起こす力があり、ブランドと顧客との間に深い感情的なつながりを生み出すことができます。ブランドと感情的なつながりを感じた顧客は、ブランドへの忠誠心を維持し、ブランドの「ロイヤルカスタマー(企業やブランドのファンとして、愛着や信頼を持ってくれる顧客)」になる可能性が高まります。
2−3.ブランド価値の伝達
ブランドストーリーテリングは、企業が自社のブランド価値や使命を、ターゲットとする顧客に響くように伝えるのに役立ちます。ストーリーを用いて独自の価値提案や個性を伝えることで、ブランドは顧客とよりパーソナルなつながりを築くことができるでしょう。
2−4.記憶に残る
ストーリーは、事実や数字よりも記憶に残りやすいものといえます。ストーリーの形で情報を提供することで、ブランドは顧客にとってより親しみやすく、記憶に残りやすいものにすることができます。これは、強いブランドを構築するために不可欠な、ブランドの認知度を高め、想起させることにつながります。
3.ストーリーテリングを活用している米国企業
ストーリーテリングを活用している米国企業の実例を紹介します。
3−1.Warby Parker
( https://www.warbyparker.com/ )
Warby Parkerは、米国のニューヨークに本拠を置く、オンラインでの販売を主力とするメガネなどのアイウェアの企業です。2010年創業のWarby Parkerは、ブランドストーリーテリングを積極的に活用して、マーケティング戦略を展開しています。以下に、同社が採用しているブランドストーリーテリングの例をいくつか紹介します。
● 創業者のストーリー
Warby Parkerは、創業者たちがアイウェアを手頃な価格で提供するというビジョンを持って設立されたという創業ストーリーを活用しています。同社のウェブサイトや広告では、創業者たちの背景や思想について語られ、顧客に親近感を与えています。
● デザインのストーリー
Warby Parkerのフレームやレンズには、それぞれ独自のストーリーやデザインが込められています。同社の商品ページやカタログでは、それぞれのアイウェアについてのストーリーが語られ、商品に対する興味や関心を引き出しています。
● ソーシャルメディアでのストーリーテリング
Warby Parkerは、ソーシャルメディアを活用して、商品やブランドのストーリーを広く共有しています。InstagramやFacebookなどのプラットフォームでは、商品の写真や動画に加えて、企業のバックグラウンドや社会的貢献活動についても紹介されています。例えば、貧困地域の人々にアイウェアを提供するために、「Buy a Pair, Give a Pair」というプログラムを開始し、世界中で多くの人々に支持されています。
3−2.Casper
( https://casper.com/ )
Casperは、マットレスのオンライン販売に特化したスタートアップ企業であり、ブランドストーリーテリングを活用してマーケティング戦略を展開しています。以下に、同社が採用しているブランドストーリーテリングの例をいくつか紹介します。
● マットレスのストーリー
Casperは、マットレスの製造工程や品質にこだわりを持っており、それをブランドストーリーテリングに活用しています。同社のウェブサイトや広告では、マットレスに使用される素材や技術、製造工程について紹介され、顧客に製品の品質や信頼性をアピールしています。
● エクスペリエンスのストーリー
Casperは、マットレスを購入することで得られる快適な寝心地や、簡単な注文・配送・設置のショッピング体験をアピールしています。同社の広告では、眠りの重要性や、マットレスの選び方についてのアドバイスが提供されており、顧客に対し、良質な睡眠は手軽に手に入れられることを伝えています。
● ブランドのストーリー
Casperは、”Better Sleep, Better Everything”(良い睡眠、そして全てが良くなる)をブランド理念としています。また、同社のマットレスや寝具は、環境にも配慮して製造されており、社会的責任を果たすことも重視しています。Casperは、企業のバックグラウンドや理念について繰り返し紹介することで、顧客に共感を呼び起こしています。
3−3.Allbirds
( https://www.allbirds.com/ )
Allbirdsは、自然素材を使った環境にやさしいシューズを提供するブランドとして知られています。同社のストーリーテリングを活用したマーケティングでは、以下のような特徴があります。
● 環境にやさしい素材の使用をアピール
Allbirdsは、自然素材であるニュージーランド産のメリノウールや、ユーカリなどの植物性素材を使っています。環境に配慮した製品を提供していることを強調し、製品のユニークな特性を紹介しています。
● ストーリーの共有
同社は、製品を販売するだけでなく、製品の背後にあるストーリーやブランドの理念を共有することで、顧客とのつながりを深めています。例えば、同社の公式サイトには、製品に使用される素材の生産者や製造工程についての情報が掲載されており、ブランドの信頼性を高めています。
● エクスペリエンスの提供
Allbirdsは、オンラインショップのみならず、実店舗でもシューズを試着できる環境を提供しています。また、同社は顧客がシューズの使い心地や素材について詳しく知ることができるよう、製品に関する情報を提供することで、顧客との信頼関係を築いています。
4.優れたブランドストーリーの要素
Forbesの記事では、ブランドストーリーテリングを成功させるには、以下の5つの要素が重要だと述べられています( https://www.forbes.com/sites/williamcraig/2018/06/12/5-essential-elements-of-powerful-brand-storytelling/ )。
● Authenticity(真正性):真実味があり、自然なストーリー
● Connection(つながり):顧客が感情的に共感できる要素を含むストーリー
● Evocativeness(想像力をかきたてる):顧客の想像力をかきたて、思い出に残るストーリー
● Relevance(関連性):顧客の生活や価値観と関連性があるストーリー
● Surprise(驚き):顧客に印象づけられやすくなる、驚きや面白さを含んだストーリー
これらの要素を組み合わせることで、ブランドストーリーテリングは顧客の記憶に残り、ブランドロイヤルティを高めることができるとされています。
5.海外進出・海外展開への影響
日本企業が海外市場への進出を目指す際には、独自のブランドストーリーを構築することが必要不可欠となります。なぜなら、海外市場では多くの競合企業が存在しており、日本企業はどのような価値を提供しているのかを、顧客に対し説明しなければならないからです。
ブランドストーリーテリングは、自社の強みをアピールするための有力なツールとなります。日本企業は、説得力のあるストーリーを通じて、自社の強みや独自のセールスポイントを効果的に伝えることができるでしょう。これによって、競合他社との差別化を図り、自社の存在感を高めることができます。また、魅力的なストーリーを語ることで、顧客は日本企業の製品やサービスに対して愛着を持ち、ブランドロイヤリティを高めることができます。
また、ブランドストーリーテリングを活用することで、日本企業は自社の文化や価値観を伝えることができます。海外の顧客は、製品やサービスだけでなく、その背景にある文化や歴史にも興味を持っています。ブランドストーリーを通じて、顧客とのさらなる信頼関係を構築することができるでしょう。