目次
1.はじめに
従来の広告は、人々の願望や理想像に訴えかけるスタイルが主流でした。具体的には、ブランドは、俳優やモデルなどの有名人を起用し、ターゲット層がなりたい人物像を表現することで、製品やサービスを訴求していました。しかし、最近、このアプローチは変化しつつあります。
中でも新しいマーケティング手法として一般的になったのが、インフルエンサーマーケティングです。インフルエンサーのレベルには大小があり、そのフォロワー数によって、ビジネスで期待できる結果は異なります。多くの企業は、より大規模なマーケティングが効果的だと考える傾向にありますが、実際には、必ずしもそうではありません。現在、マイクロインフルエンサーと呼ばれる、よりターゲットを絞った訴求方法が注目されています。
米国のインフルエンサーマーケティング会社MediaKixによると、マイクロインフルエンサーは1万人から5万人のフォロワーを持つアカウント、マクロインフルエンサーは50万人から100万人のフォロワーを持つアカウントとして定義されています。
本稿では、企業がマイクロインフルエンサーとコラボレーションすることの利点、およびマイクロインフルエンサーマーケティングの実例について紹介します。
2.マイクロインフルエンサーの定義
マイクロインフルエンサーとは、有名人ほどフォロワー数は多くないものの、特定の領域のコミュニティで一般人よりも影響力を持つインフルエンサーのことを指します。具体的には、1万人〜5万人のフォロワーがいる規模感です。
マイクロインフルエンサーは、フォロワーを介して、自分の興味や専門性に沿った製品を宣伝します。例えば、フードブロガーであれば、ミールキットのサービスを宣伝したり、旅行ブロガーであれば、スーツケースのブランドを紹介したりするということになります。
3.マイクロインフルエンサーとのコラボレーションが企業にもたらすメリット
ブランドがマイクロインフルエンサーを活用するメリットは大きく、特定のコミュニティでフォロワーと信頼関係を築いているマイクロインフルエンサーの力を借りることで、有名インフルエンサーよりも低価格で、ブランドへのエンドースメントを高めることができます。
ここでは、マイクロインフルエンサーとのコラボレーションが企業にもたらすメリットについて詳しく紹介します。
3−1.エンゲージメント
リーチ数(広告を表示したユーザー数)の数を重視するのであれば、有名インフルエンサーや全国ネットのテレビCMの利用が効果的です。しかし、エンゲージメント(オンラインコンテンツが獲得した「シェア」「いいね」「コメント」の数)を重視する場合には、マイクロインフルエンサーが効力を発揮します。
マイクロインフルエンサーは、特定のコミュニティに属しており、ニッチな関心事を共有していることが特徴です。そのため、マイクロインフルエンサーはフォロワーとは友達のように、一方通行ではなく双方向性の交流を頻繁に行っています。
現代人は、信頼できる本音のおすすめや、公平な意見を求める傾向にあります。そのため、有名人が商品を紹介したとしても、それを目にしたフォロワーの多くが投稿を広告と見なして素通りすることが増えてきました。一方で、マイクロインフルエンサーはもともと特定の領域のコミュニティリーダーという立ち位置にあります。そのため、有償のパートナーシップによる投稿だとしても、マイクロインフルエンサーが自分の好きな製品やサービスを自分の意志でシェアしているように見えるというわけです。
ソーシャル・ベイカーズによると、マイクロインフルエンサーは、マクロインフルエンサーと比較して、「最大60%のエンゲージメント率の向上を誇る」という報告もあります(https://www.socialbakers.com/blog/micro-influencers-vs-macro-influencers)。また、マイクロインフルエンサーのコンバージョン率は20%以上高く、ブランドのEコマースの売上を伸ばすのにも貢献してくれます。
このように、マイクロインフルエンサーのフォロワー数は限定的であるものの、ブランドはマイクロインフルエンサーとの連携により、信頼性と実際の購入への道筋を引き出すことが可能になります。
3−2.親近感によるパフォーマンスの高いコンテンツ
TikTokのようなプラットフォームの爆発的な成功は、素人による生成コンテンツが、プロがスタイリングして撮影した洗練されたコンテンツと同じくらい、あるいはそれ以上のインパクトを与えることを意味しています。
洗練されたかっこよさよりも、自分自身を投影できる親近感を与えるコンテンツが好まれる現在、マイクロインフルエンサーの友達感覚こそが、高いパフォーマンスを引き出してくれることが期待できます。
3−3.複数マーケットおよびニッチマーケットへの訴求
ブランドがスポンサー付きコンテンツとして商品の宣伝をインフルエンサーに依頼する際、そのコストはインフルエンサーのフォロワー数と連動します。マイクロインフルエンサーは、フォロワー数が比較的小さいため、ブランドにとって手頃なパートナーとなります。
つまり、マイクロインフルエンサーは低コストでの活動が可能なため、ブランドは多くの異なる市場セグメントをカバーする複数のインフルエンサーとコラボレーションすることで訴求対象を拡大することができます。年齢など属性が異なるさまざまなインフルエンサーに依頼することで、ブランドは新たなオーディエンスを獲得することができるでしょう。
さらに、マイクロインフルエンサーは、カテゴリーに特化したトピックで訴求することが得意です。これはそもそもマイクロインフルエンサーが、ある種の専門家、コミュニティのリーダー的存在であることが多いことに起因します。ブランドは、このような高度にキュレートされたコミュニティを利用することで、有名インフルエンサーでは不可能な細かなターゲティングが可能になります。
4.事例紹介
4−1.ディオール
(https://www.dior.com/)
2020年、ハイブランドとして知名度・人気ともに高いブランドのDiorは、インフルエンサーマーケティングアワードのベストビューティキャンペーンで金賞を受賞しました。対象となったのは、DiorがインフルエンサーマーケティングエージェンシーのButtermilk(https://buttermilk.co/)とタッグを組んで行った「67 Shades of Skin」というキャンペーンです。これは、67パターンのシェード(色合い)を持つファンデーションシリーズであるDiorのフォーエバーファンデーションの発売を記念して行われました。
このキャンペーンは、フォーエヴァー ファンデーションの幅広いシェードのラインアップを紹介するために、各シェードを代表するアンバサダー(マイクロインフルエンサー)を起用し、製品の多様性を訴求しました。また、Diorのオウンド・チャンネルで再利用できるブランデッド・コンテンツも作成されました。
4−2.ダンキンドーナツ
(https://www.dunkindonuts.com/)
米国の大手2大ドーナツチェーンのひとつダンキンドーナツとその代理店であるTrilia(http://triliamedia.com/)は、ナショナル・ドーナツ・デーの認知度を高めたいと考えていました。そこで、デジタルタレントネットワークとエンターテイメントスタジオであるCollabと提携し、視覚的に魅力的なクリエイティブコンテンツを特徴とする、全国的なSnapchatキャンペーンを作成しました。
ダンキンドーナツはこの日のために特別なキャンペーン(ドリンクを買うと、ドーナツが1つ無料)を用意し、Collabは8人のライフスタイルクリエイター(マイクロインフルエンサー)を選出しました。
当日、アメリカの3つのタイムゾーンと3つの都市で実施されたキャンペーンでは、インフルエンサーたちは、自分たちのコンテンツを利用して、フォロワーをダンキンドーナツストアへ誘導し、キャンペーンに参加してもらうことができました。
結果として、ダンキンドーナツはナショナル・ドーナツ・デーにSnapChatチャンネルのフォロワーを、通常の1ヶ月分の10倍も獲得することに成功しました。
4−3.ハーゲンダッツ
(https://www.icecream.com/us/en/brands/haagen-dazs)
1960年にニューヨーク・マンハッタンで誕生したドラッグストアDuane Reade(2010年から米国最大手のひとつWalgreenの傘下)(https://www.walgreens.com/topic/duane-reade/duane-reade.jsp)は、ニューヨークエリアのDuane ReadeとWalgreensで、ハーゲンダッツのBOGO(1個買うと1個もらえる)キャンペーンとサンプリングイベントを実施しました。
この際、ハーゲンダッツは、ミレニアル世代のライフスタイルをターゲットにしているニューヨークの地元インフルエンサー(マイクロインフルエンサー)とパートナーシップを組みます。インフルエンサーたちは、当時のニューヨークの時事問題に関連した言葉遊びである「ハーゲンダッツ オープンコンテナ」(#HDOpenContainer)をテーマにコンテンツを作成しました。このコンテンツの作成と同時にサンプリングイベントを開催し、無料で受け取ったアイスクリームの試食品の写真をインスタグラムでシェアするよう参加者に呼び掛けました。そして、ハーゲンダッツを、友人と楽しむ贅沢な大人のスイーツとして訴求しました。
5.海外進出・海外展開への影響
ソーシャルメディアの時代が進むにつれ、ブランドがフォロワー数だけを見てパートナーシップを決定する時代は過ぎ去りつつあります。最先端のインフルエンサープログラムは、ブランドのマーケティング目標に関連するマイクロインフルエンサーを選りすぐり、ブランドの特色を活かせるカスタマイズされた方法で展開されています。
海外進出する際には、進出先での顧客獲得が重要となりますが、その際、今回紹介したマイクロインフルエンサーとのコラボレーションも検討すると良いでしょう。有名人を起用したCMよりも大きくコストを押さえつつ、多くの人への訴求効果が期待できます。