目次
1.はじめに
近年、マスクや社会的距離の慣行、在宅勤務などによって、閉塞感を感じる人が多くいます。このような社会環境の変化の中で、数十年前の良い思い出を蘇らせるような、馴染みのあるエンターテイメントを探し求める傾向が強まってきました。実際、最近の調査(https://latana.com/post/nostalgia-marketing/)では、消費者の半数以上が、若いころに見たテレビ番組や映画、歌に安らぎを見出していることがわかっています。
ノスタルジーが退屈、孤独、不安を和らげるということは、実は何年も前から研究されています。人生の難しい転換期やストレスの多い瞬間に対処する効果的な方法としてノスタルジーが有効だという研究もあります。。つまり、不確実性が続く現在、人はノスタルジーに安らぎを見出しており、今こそ、ノスタルジア・マーケティングの需要が高まっています。
ノスタルジア・マーケティングとは、過去のポジティブで親しみのあるコンセプトを利用して、新しいアイデアに対する信頼を築き、現代のキャンペーンを活性化させる戦略です。ターゲット層がすでに好きなもの、思い出のあるものを活用して、自社ブランドへ誘引する戦術です。
本稿ではノスタルジアマーケティングの概要について説明するとともに、米国ブランドのマーケティング事例を紹介します。日本企業が海外進出をする際には、ブランドの認知を高めることが重要です。ノスタルジックの強みを活用すれば、馴染みのない海外企業に対しても親しみを感じてもらいやすくなることでしょう。
2.ノスタルジアマーケティングとは
ノスタルジアマーケティングとは、ブランドを過去のポジティブなコンセプトやアイデアと結び付けるマーケティング手法です。過去の良い思い出とブランドとを関連付けることで、消費者に快適さと安心感をもたらす効果があります。
ノスタルジアマーケティングのコンセプト自体は新しいものではありませんが、最近、特に人気が高まっており、Netflixからマクドナルドまで、さまざまな企業で活用されています。
ノスタルジアマーケティングの効果に対する研究も活発です。ワシントン州立大学ビジネス・経済学部の研究者たちは、ノスタルジックな広告とそうでない広告に対する消費者の反応を調査しました。その結果、ノスタルジーをテーマにした広告を見た消費者は、ノスタルジーをテーマにしない広告を見た消費者に比べ、その広告や広告ブランドをより好意的に評価することがわかったのです(https://www.jstor.org/stable/4189264)。
また、別の研究では、懐かしさを感じることで、人は興味のあるものに対してより多くのお金を払うようになることがわかっています(https://hbr.org/2014/07/science-shows-why-marketers-are-right-to-use-nostalgia)。ブランドが昔の記憶を利用して顧客との感情的なつながりを築き、最終的に売上を伸ばすのは自然な流れといえるでしょう。
自伝的記憶(人生のエピソードを記録する記憶システム)に関する研究では、私たちが過去のエピソードを思い出すと、元のエピソードに結びついた感情を再体験することが示されています(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0896627314008484)。例えば、子供時代ののんびりした時間、家族での楽しい夕食、友人とのドライブやゲームなど、ポジティブな思い出であれば、それと関連した現在のマーケティングに対しても同じような喜びを経験する可能性が高いのです。
ノスタルジアマーケティングを介して、顧客や潜在顧客はかつての楽しいエピソードを思い出します。そして、その体験を追体験しながら、時間を戻してくれたあなたのブランドに対しても、ポジティブな感情を広げる可能性が高いのです。それは、両者にとってWin-Winとなるでしょう。
3.ノスタルジアマーケティングの実際の例
ノスタルジアをマーケティング戦略に使用した企業の例をいくつか示します。
ジョニードーナツ(https://www.johnnydoughnuts.com/)
ジョニードーナツは1920年代の古典的なレシピを使用し、職人による手作りというコンセプトを重視しています。ガラス張りのキッチンで作業過程を見ることも可能です。よりシンプルで古き良き時代を彷彿とさせるドーナツを提供しています。
ウォルマート(https://www.walmart.com/)
米国小売大手のウォルマートは、2019年のSuper Bowlのコマーシャルで、カーブサイドデリバリーサービスを促進する広告を作成。その中では、象徴的な映画やテレビ番組の素材を取り入れています。例えば、ジュラシックパーク内で使用されたエクスプローラー、シンデレラのカボチャの馬車、スクービー・ドゥーのミステリーマシーンなど、おなじみのポップカルチャー車両を使用して、懐かしさを詰め込みました。
バーガーキング(https://www.bk.com/)
バーガーキングは、2021年に新しいロゴデザインを発表しました。歴代のデザインと比べると「1969年〜1994年」「1994年〜1999年」のバージョンに近いものとなりました。先代のロゴにあった食べ物に存在しない青色や光沢感をなくし、「より本来のバーガーに近い色」を採用。フォントもより伝統的でアイコニックなものに変更しており、70年代当時からブランドを知っていた顧客層に、懐かしさを感じさせます。
4.ノスタルジックマーケティングの手順
自社でノスタルジアマーケティングやキャンペーンを企画する際には、以下の点がポイントになります。
4−1.リサーチ
まずは、ターゲット層のペルソナを作成しましょう。年齢層や、その年代のトレンドを調べます。例えば、ミレニアル世代をターゲットにしているのであれば、90年〜00年代にブームになった、ボーイ・バンド&ガール・グループからインスピレーションを得ることができます。X世代をターゲットにするなら、ファンキーでディスコが好きな70年代を意識するといいでしょう。
4−2.ディテールにこだわる
特定の時代を模倣する場合、音楽、色、フォント、画像など細部に至るまで正しく表現することが重要です。
4−3.クリエイティブになること
過去の番組やキャラクター、ブランドの使用には許可が必要で、自社キャンペーンへと気軽に転用できるものではありません。ただし、特定の時代の要素(フォント、色、ファッションの選択など)をマーケティングキャンペーンに取り入れることで、無理なくその時代の雰囲気を再現することは可能です。
4−4.会社の歴史からヒントを得る
どんなブランドにも、語るべきストーリーがあるはずです。ガレージからビジネスをスタートさせた、最初はポップアップショップだったなど、現在に至るまでの自社のストーリーを振り返ります。ノスタルジアマーケティング戦略には、自社ブランドのストーリーを盛り込むことでより効力を発揮するのです
5.海外進出・海外展開への影響
ノスタルジアマーケティングの最大のメリットは、本質的にシェアしやすいということです。懐かしさを感じる投稿は、「そういえば、こんなことあったな」と、家族や友人など、思い出のある人たちと共有したくなるものでしょう。
また、中小企業や、スタートアップ企業など、多額の費用を広告にかけられない場合も多くあります。その点、ノスタルジアマーケティングをSNSでの共有を介して口コミ的に情報拡散してもらえれば、費用をかけずに大きな広告効果が期待できるのです。
ノスタルジアマーケティングをうまく活用すれば、日本企業が海外市場での認知を高めることにもつながります。自社のターゲット層に刺さるコンテンツを研究し、自社のブランドイメージを高めるようなキャンペーンを展開すると良いでしょう。